麦ふみクーツェ (新潮文庫)
麦ふみクーツェ (新潮文庫) / 感想・レビュー
seacalf
童話のようなわかりやすい平易な言葉遣いで優しい語り口ながら、細部にまでものすごく目が行き届いた文章。『読む』という行為そのものの喜びを改めて感じさせてくれる稀な作家さんだ。どこかわからない街での、不思議なモチーフをふんだんに登場させたこの不思議なストーリーは、どこか真理をついているようなお話。全体的に物悲しさが少々漂うが、主人公をはじめとして用務員さんや郵便局長の妹さん、ちょうちょおじさんやチェロ弾きの先生などへんてこだけど愛すべき人物や奇妙なエピソードが沢山登場するから、忘れられない大好きになる一冊。
2018/05/23
ずっきん
素数に取り憑かれた父と音楽に妥協のない祖父。やたらデカいばかりで心臓が弱い僕。これは童話か、それともマジックリアリズムなのか。児童書のような語りにして、隅々まで心配りされた文章。読み心地は控えめに言って極上である。数々の印象的なエピソードが収束していくさまも見事で、ルイス・サッカーの『HOLES』を連想させる。なおかつ、なんといっても、とても、あたたかい。いやもう、よかった。上司のお薦め本なんだけど、自分じゃ絶対選んでそうにないもんな。本当に出会えてよかった。色が見え、音が聴こえてくる小説にハズレ無し。
2022/08/13
(C17H26O4)
ねこ 音楽 素数 恐竜 ねずみ 不協和音 狂気 匂い 声 色 変な人 調整 調和 とん、たたん、とん にゃあ!
2022/05/13
Rin
とん、たたん、ずっとずっと麦踏みの音が響いている。その音を聴きながら成長していくのは、猫よりも猫の鳴き声が上手なねこ。ねこはとっても背が高いけど、心臓は弱い。ねこの目を通して、理不尽な大人や不思議な出来事、不幸で悲しくてどうしようもないこと。たくさんのことを経験できる。そして、いつだって麦踏みの音と、音楽がある。ねこを取り巻くへんてこな人々。でも誰だってへんてこで、でも誰かと繋がっているし、繋がっていたい。そして音楽は、演奏は繋がることができる素敵な手段。それを思い出させてくれた不思議でへんてこな物語。
2016/12/16
ちょこまーぶる
読後は前を向こうと思った一冊でした。音楽家の祖母と数学者の父と主人公の楽器と共に育てられ指揮者を目指すことになる少年の話で、彼らも含め登場人物それぞれのキャラクターが物凄く緻密に表現されていて、情景も目に見えるような感覚となってしまいました。そして、少年が自らのアイデンティティ?を見つけ出す過程にお付き合いが出来た感覚にもなりました。それから、音楽の力みたいなものも感じられて、田舎の町に音楽が奏でられ続けていたことが、如何に貴重だったことかとさえ思ってしまいました。良い一冊でした。
2024/04/19
感想・レビューをもっと見る