手のひらのトークン (新潮文庫 あ 29-1)
手のひらのトークン (新潮文庫 あ 29-1) / 感想・レビュー
みーなんきー
どなたかの著書で、この本にとても影響を受けて生きてきて、その後安西さんに会って質問したら、あれはフィクションだと言われ失望した、と書いてあった。自分もそれほど心打たれるものか読んでみた。1960代の米国のイメージは、自分も子供の頃移り住んだのでわかる。1$=¥360全ての物が、大きく、ダイナミックで、異国そのものだった。初渡米、異国での仕事、彼女との同棲、前例がない中開拓してきた世界。二十歳の頃に、金欠の中渡米した自分と重なった。
2021/07/25
阿部義彦
新潮文庫用にとの書き下ろし半自叙伝的小説。平成2年10月刊。本人の後書きにこの小説は90%の真実で書いたことを記しておく。とあります。1969年ニューヨーク、長年務めた電通を辞めて、ひとりつても無く部屋探し、職探しから始まる。後には里美がこれに加わる。「人間の弱さは、怒るか青ざめるかそのどちらかでのがれるしかない。いずれにせよ、つまらない言い合いの原因はいつも僕にあった。」人種の坩堝ニューヨークの暖かさも怖さも、若い二人には如何程のものだったのか?スノードームに閉じ込められた二人の青春。
2017/03/20
エドワード
1969年。大手広告会社を辞めて渡米した僕と彼女の里美のニューヨーク物語。当時の日米の生活レベルは雲泥の差だったろう。大きな肉、野菜、地下鉄、スーパーマーケット。今でこそみんな知っているブルックスブラザースやヴィレッジヴァンガードも雲の上の存在だ。世界の先端を行く暮らしも、ビザ問題や犯罪と隣り合わせ。ユダヤ人、ドイツ人、タイ人。まさに人種の坩堝。ハロウィンやクリスマスが人々の暮らしに溶け込んでいる様が微笑ましい。安西水丸さんは昨年亡くなった。ユーミンの「パール・ピアス」が懐かしい。ご冥福を祈ります。
2015/01/05
makimakimasa
図書館で赤坂真理『東京プリズン』が貸出中だったので、代わりに同じ棚から借りた本。著者は私の妻が昔デザインを習っていた人だが、小説も書いていたのか。あとがきによると90%が真実らしいが、とても素敵な作品だった。大きな事件が起こる訳でなく、69年NYでの新生活を、後から追って来た恋人と切り開いていく、若い2人のささやかな日常が淡々と綴られる。時に不安や苛立ちを抱えつつ、職場や学校で様々な境遇の人達と交流を築いていく様子、数多くのストリートを歩いて目に映る街の風景と季節の移り変わりがセンチメンタルで眩しい。
2024/08/04
punk1978
先日亡くなったことを知り、久々に読み返してみることに。どことなく山田太一に似た雰囲気がある、安西水丸。 重いことをサラッと書くというか、今ならオサレ系の作家に分類される作風なんじゃなかろうか。 大手の某広告代理店(伏せ字にはしてあったものの、この本が彼の自叙伝的な作品であるため、思いっきり電通だってバレバレですけど)にサラッと入ってサラッと働いてサラッと辞めてサラッとニューヨークに行ってサラッと恋人を呼び寄せてサラッと暮らす。 簡単に書くとこういう物語なのだが、淡々と綴られる中にもどこか寂寥感が漂う。
2014/03/27
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