イカルス失墜 (新潮文庫 草 88A)
イカルス失墜 (新潮文庫 草 88A) / 感想・レビュー
しゅんしゅん
戦前の短編9編。人間の死と隣り合わせの状況で、植物の生がむせ返る散文詩で綴られる「生物祭」、蔑んでいた弱者から足をすくわれ、不安を感じる内面を描いた「イカルス失墜」、全体的に精神的な描写がぎっしりで、心理的に迫ってくるものは大きいが、難解な文学である印象が強い。初期と後期の作品で作家の印象は変わることもあるので、他の作品も読みたい。昨日読んだ三浦朱門の「犠牲」の解説で、私小説が多い近代文学の中で、自己凝視や自我批判をする稀有な文学者として夏目漱石、伊藤整の名があがっていたので、気になる作家のひとりである。
2021/11/21
fubuki
今まで何となく近寄りがたく、読んだことがなかった。これは初期の作品らしく、みずみずしさも感じられるが、やっぱりちょっと遠い存在。それでも「馬喰の果て」が一番よかったかなぁ。
2014/10/31
悸村成一
短編集、全9編。1932-37年頃の作品。
2013/10/14
なおぱんだ
著者にしてみては実験的な作品が含まれていますが、中には著者の若き時代の精神的な葛藤を描いた作品もあり、なかなか興味深いものでした。表題作の「イカルス失墜」と「生物祭」は、著者自身の心の内面を描いたものとしてとても似た印象を持つ作品ですが、不安定な立場に置かれた若者の苦悩に終始した内容は、読む者の胸に迫るものがあります。「石狩」や「隣人」は、著者が過ごしてきた当時の北海道の空寒さが背景となり、その辺境に生きる貧しい人間の悲哀を描いたものです。
2016/03/01
JVSTINVS
伊藤整としてはまだ「アート」が前面に押し出されている時代の作品で、確かな描写力が裏目に出る作品(『馬喰の果て』など)もある。ここから前衛アート色を抜いていった、その方法が伊藤整の巧さなのか。
2022/01/12
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