しぶちん (新潮文庫)
しぶちん (新潮文庫) / 感想・レビュー
優希
面白かったです。山崎豊子さんの短編を読むのは2冊目。「しぶちん」とは大阪弁で「けちん坊」ということだそうで、そういう意味合いの言葉をタイトルに掲げるのがユーモアがあると思いました。山崎豊子さんにとってははじめての短編集であることからも、小説活動の原点とも言えるかもしれません。昭和の空気と商人根性が感じられます。長編の重厚感もいいけれど、このような軽やかな作品も味がありますね。
2016/12/14
s-kozy
昭和34年の2月に発行された山崎豊子さんの初の短編集。短編が5編収録されています。ナニワの商人のど根性と一途な執念を描いた「船場狂い」と「しぶちん」、これは船場出身の山崎さんが初期に得意とした舞台ですね。前者は人生の皮肉、後者は一途な主人公の滑稽なまでの執念から却って人間的な魅力が感じられます。「死亡記事」は新米女性新聞記者と卑怯な行為はしない新聞社の主筆との邂逅を描いた私小説的作品。「持参金」と「遺留品」は著者曰く「小説の中へ殺人のないスリラーを持ち込んでみたもの」、どちらも上等のミステリー。
2015/12/05
reo
この5編とも昭和33年(1958年)の短編集。昨日の「花のれん」の感想にも書かせてもらいましたが、古いことも何ともおまへん。むしろ昨今のポット出の作家先生より数倍面白い。巻末の解説で山本健吉氏は「『船場狂い』の久女にしろ『しぶちん』の万次郎にしろ、笑われさげすまされながら意に介せず、最後は思いどおりの人生を乗り切り〔中略〕どちらもえげつないまでの執念の虫である」そして「大阪という特殊な雰囲気を持った都会の空間的な拡がりを、描き出すことに成功している」と。残り3編もサスペンス仕立てで面白いこと請け合いです。
2017/02/24
研二
短編5編が入っている本。『船場狂い』『持参金』『しぶちん』の3編が大阪商人が出てくる小説。『死亡記事』は、著者にはめずらしい新聞社が舞台の小説。『遺留品』も推理小説的なストーリーで山崎氏の小説では珍しい。『しぶちん』は、ものすごいケチな人が成功していく様子をユーモラスに描いた一代記で、これが一番面白かった。『船場狂い』もユーモアがあってよかった。こういう短編にも山崎豊子の良さが発揮されている。短編というのがあまり評価されない風潮があるせいか、山崎豊子の書いた短編小説は少ないが、もっと書いてもらいたかった。
2017/05/02
Galilei
船場、順慶町の老舗昆布・小倉屋山本のいとさんで、毎日新聞に勤められた作者ならでは。江戸時代からの厳格なしきたりと、爪の先まで染みついた始末は、封建社会の奉公を詳らかに。▽しかし、劇作家で脚本家の花登筺は、丁稚の悲壮な身上さえもペーソスの喜劇にして客を喜ばせた商売気あふれた作家だった事と比べると、やはり山崎豊子は「ええし」(上流階級や金持ち)のお嬢さん理由か、悲劇の文学にしたかったように思えます。▽とはいえ、苦悩する「おなごし」の描写は、船場の女性作家ならではの心憎いばかりの細かさに感嘆します。
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