憎悪の依頼 (新潮文庫)
憎悪の依頼 (新潮文庫) / 感想・レビュー
こばまり
私的清張祭を開催。目当ては「絵はがきの少女」であったが、舞台も設定もさまざまでいずれも楽しめた。「壁の青草」はまさかのBLである。10編中2編に山梨が登場。
2019/07/25
竹園和明
傑出した短編作10編が並ぶ。表題作は惚れた女を落とそうと必死になる線の細い気弱な男が、弄ばれている事に気付き第三者に復讐行為を依頼。しかしその男への感情が嫉妬となり、果ては憎悪に変化していく姿を描く。「女囚」は母親を助ける為に酒浸りで家庭の破壊者たる父親を殺害し刑に服する女を通し、正義の意味を問う。著者の代表作「点と線」を彷彿とさせる「すずらん」。巧妙なアリバイ作りが推理小説の王道。懐かしい質感が逆に新鮮だった。夢と現実の落差が主人公を打ちのめす「絵はがきの少女」「大臣の恋」など、多彩な色合いの短編集だ。
2024/06/01
佐島楓
全十篇の短編集。「絵はがきの少女」「大臣の恋」は清張作品では珍しいくらいロマンチック。もちろんミステリなのできちんとオチもつく。「金環食」は終戦直後に起きた話のようだが、実際にこういったことがあったのだろうか。起こっていたとしても不思議ではない。人間心理、貧困といった問題に対し、とても優れた作品集。
2014/02/23
きょちょ
短編10作。 表題作は、こんなに親しくなっているのに何もさせてくれない女性なんて、私ならさっさとわかれているけど、話としては面白い。「すずらん」は、清張らしいアリバイの話。「絵はがきの少女」は、ロマンチックだが物悲しい話。 特に面白かったのはこの3つかな。 「大臣の恋」も、ロマンチックだが結末残念。流行作家の清張が1つのアイデアで締め切りに追われさくっと書いたようにも思われる。 「壁の青草」は、刑務所の中の同性愛の話で、私は全く受け付けないが、清張としては異色作。 ★★★
2022/07/22
みみぽん
極上の短編集。どの作品も恨みや嫉妬、欺瞞、哀しさ、人間のもつ表裏一体の内側が、最後の数ページで明かされていくトリック手法で「こころのどんでん返し」を食らったような崇高さだった。「すずらん」愛人を殺した男が完全犯罪を目論むもーたった5分。駅で目を離した隙に空いた穴。「女囚」家族のために父親を殺したある一人の女を見守る看守。同情と反比例する世間の無情。「絵はがきの少女」写真にたった一コマ映り込んだ美少女を追い求める男の執着と悲哀…。これから忘れ難き作品になりそうなものばかりで一本の短編映画を観たような満足感。
2022/06/13
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