けものみち(上) (新潮文庫)
けものみち(上) (新潮文庫) / 感想・レビュー
びす男
現実から逃れるために、女はけものみちを歩むことを選んだ。周囲には彼女を道具にしようと企む権力者たち、後ろには執拗に追ってくる刑事。ここまで脂ぎった世界を描くには、並々ならぬ筆力と構成力が必要だろう。どこに向かうとも知れず、けものみちは続く。誰も振り返らず、物語は進むべくして進んでいる。どんな結末を迎えるのか。深い山奥にあって、頼るべき道がそこしかない時のように、読者もまた引き込まれるようにけものみちを進んでいく。
2015/08/31
NAO
脳軟化症の夫の縛られた状態にある割烹旅館の民子が、自由を求めてある賭けに出たところ、自由の身となって送り込まれた先が脳軟化症の政財界の黒幕の老人の屋敷だったとは何とも皮肉な話だ。それでも、自由になれた途端に奔放に、しつこく男を求めるあたりが、何ともすさまじい。しつこさでは、民子を追い続ける刑事久恒も負けてはおらず、清張の人物描写には凄味を感じる。
2019/05/13
ともくん
いかにも、昭和な犯罪小説。 民子が、徐々に性悪になっていく様が読んでいて、ゾッとする。 まだ、物語の一部にしか光が当たっていない。 全体像が、どのようなとのなのか気になる。
2021/03/16
ソーダポップ
上巻の冒頭で「カモシカやイノシシなどの通行で山中につけられた小径のことをいう。山を歩くものが道と錯覚することがある」と書かれている。主人公の成沢民子も、警視庁の久恒刑事も、政界の黒幕とされる鬼頭洪太、それを取り巻く様々な人物も、けものみちに踏み込んでいく。その道はもともと人間が歩む道ではなく、方角を誤り思わぬ山奥へ入ってしまう。人倫の道もこのけものみちと大差なく、動物のゆく道を人の道と錯覚し、どんどん悪の深間へ落ちこんでいく過程が上巻で生々しく描写されている。
2022/03/12
hatayan
1963年刊。難病にかかり自暴自棄の夫に嫌気を覚えていた民子は、ホテルの支配人の小滝に見初められ、唆されて自宅に放火して夫を焼殺。弁護士の秦野の仲介で財界の黒幕である鬼頭の愛人におさまります。病床の老人に女性の肉欲を刺激されどんどん大胆になる民子。世話人として仕える元愛人の米子から屋敷の主導権を奪い、次第に態度も尊大に。一方、一旦迷宮入りした夫殺しの証拠を拾い集め、民子が犯人であると突き止める刑事の久恒。職業人としてだけでなく個人的な関心をもって民子に取引を持ちかけるところが後半への広がりを期待させます。
2020/11/15
感想・レビューをもっと見る