風土 (新潮文庫 草 115-4D)
風土 (新潮文庫 草 115-4D) / 感想・レビュー
Gotoran
戦前、徐々に世の中の情勢がきな臭くなる時代、夏の避暑地という舞台で親子二世代の男女二組を登場させて、現在とかつて親世代が若かった時代を綯い交ぜにして、人物と時間軸との対比を上手に使って物語が進んで行く。世界が激しく揺れ動いた時代に日本という風土にうなれ育った芸術家の思索、苦悩、そして愛の悲劇を通して人生の深淵が描き出されている。芸術家の苦悩を描いた福永武彦の処女作を久方振りに読んでみた。
2022/07/12
松本直哉
誰かを愛することで初めて人は幸せになれるというロマンティックラブイデオロギーと、孤独な天才だけが真の創造者たりうるというロマン主義的芸術観は、相容れないはずなのに、その二兎を追ったために両方に挫折したのが桂昌三なのだろう。一人で滔々と芸術論を語り続けるさまは典型的な mansplaining で、どうして辛抱強く耳を傾けられるのかと思う。彼に反撥する道子がゴーギャンの絵画にむかって行ったあの行為は、そのような彼の態度への抗議だったのだろうか。見られることの拒絶と、「月光」を聴くことへの開かれと。
2021/09/04
sabosashi
芸術と歴史を真っ向から見つめた長編。 ロマンスも混じることによりヨーロッパ近代小説の技法がかなり流れ込んでいる。 わるくするとメロドラマに似通ってくる。 それにもかかわらず、ニホンとヨーロッパ近代というテーマが通奏低音のように支配する。 こんな小説にあえて、わたしはすごく幸せだと思った。
2016/09/12
パフちゃん@かのん変更
1974.8.27アカンサス
gloria's step
10代の頃、小説を読んで初めて強烈に夏を意識させられた作品。再読しての印象はずいぶん異なるが、個人的には、この小説の中の観念的な夏はとても魅力がある。ちょうど同じころ観た映画で夏を強く感じたのが、ヴィスコンティの『ベニスに死す』だった。夏ほど輝かしく、かつ終わりゆくものを感じさせる季節はない。
2013/05/02
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