流れる (新潮文庫)
流れる (新潮文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
戦後、雨露を凌げる場所を求め、花街で住み込みを始めた梨花さん。しかし、そこは華やかなイメージを裏切るかのような懶惰の伏魔殿であった。鼠が這い回り、病気の犬が死ぬまで放って置かれ、税務署が立ち入り検査に入るまで会計はちゃらんぽらんにされ、海千山千の女たちは汚部屋でだらしなく、過ごしているという女性の生活のリアルさが大変、厭らしいです。特に経血が染み付いた布団で寝るのが嫌で、新聞を敷く侘しさは何とも言えない。後、ちょっとしたことで仮病を使い、注目を集める不二子の姿は少女あるあるで悶絶。
2018/12/17
優希
一見華やかに見える花柳界ですが、裏の真実を見たような気がします。没落しかかった芸者置屋に女中として住み込んだ梨花。彼女の目を通して語られる花柳界は哀しさや儚さを秘めていました。その繊細さがあるからこそ、美しい夢を抱かせることができるのが芸妓なのかもしれません。
2018/04/19
アン
傾きかけた芸者置屋に住み込みの女中として働く梨花さん。彼女が花柳界で生きる女性達の悲喜こもごもを見つめた物語。梨花さんは、くろうとの芸妓達の締りのなさに驚いたり、若い娘の愚痴に同情したり、思慮深い女性であり、置屋での出来事が細やかな小気味良い文章で綴られます。華やかな世界の裏側に潜む悲哀を、昭和という懐かしい香りが包み、しみじみとした余韻があります。時代の移り変わりと人々の心の機微を、川の流れに重ねて捉えようとしたのでしょうか…。昭和の大物女優がずらりと並ぶ映画も観てみたいです。
2019/07/15
naoっぴ
儚くも美しい花柳界の話かと思ったら、どっこい業界裏方暴露話だった。くろうと芸者の表の顔からは想像もつかない普段の自堕落さ、しまりのなさ、てんやわんやの裏方日常はどこか滑稽で、それを見つめる女中・梨花の生来の気の強さもあってか痛快な物語になっている。そこかしこに散りばめられた擬態語に感覚が刺激され、おんなの世界が鮮やかに立ち上る。華やかな世界は浮くも沈むも振り幅が大きい。しなやかではあるが浮き草のような芸者たちに比べ、どっしり雑草のような根をもつ梨花に元気をもらえた一冊。
2018/09/04
bookkeeper
★★★☆☆ 未亡人の梨花は芸者置屋の女中に職を得る。かつての名店は抱えの芸者も減りつつあり、凋落の気配を漂わせていた。 初日からほぼ説明もなくこき使われても、抜群の判断力で乗り切る主人公。目新しい情報の洪水を、人生の豊富さだと捉える強かさが凄い。失踪して名前しか出ない人、退職して荷物の搬出だけ登場する人、玉の輿に乗る人など芸者の行末は色々。和服の善し悪しに敏感で付届けなどの風習が残り、タクシーが行き交う街。犬猫の糞尿がちらばる家。昭和の中頃へタイムスリップする感じです。いつの時代も生きていくのって大変。
2021/04/17
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