北愁 (新潮文庫 B 1-5)
北愁 (新潮文庫 B 1-5) / 感想・レビュー
shizuka
幸田文の文章はリズミカル。一文一文が短く明解である。だからこそ、じっとりせず暗く悲しい話だったとしてもあとを引かない。あそぎと順治はいとこ同士。とても仲がいい訳ではないが、何となく要所要所で気にしたり、気になったり。お互い大人になりそれぞれの生活に追われ、同じような不幸に見舞われる。毅然としているあそぎも、最後順治とのやりとりでは感情が崩れそうになる。涙が出そうになる。それを堪えつつわだかまっていたものを、風に乗せ順次の「きねん」に変える。順治はあそぎの手のひらに二人の絆を刻む。決して消えない二人の絆を。
2013/09/15
ぽた
たとえ、どんなに離れていても、その人がいる、という事が分かってるだけで心の支えになる。折れそうな時でも、ふんばれる。たとえ折れても、また立ち上がれる。あそぎと順治の不思議な心の距離。夫婦や親子でいることを保つよりも、この二人の様な関係を築くのって難しい。だからこそ、羨ましい。幸田文さんの長編を読んだのは初めてですが、文章が本当に美しくて、幸せな時間を過ごせました。
2012/02/06
みけのすずね
いとこ同士のあそぎと順治。きょうだいとも夫婦とも違えど、親しく信用しあう関係が対照的な二人の性質を軸に語られる。あそぎが相談の手紙を送ると流氷の絵はがきが返ってきて思い知る孤独、順治が直接働くことをすすめてぶつかってきたらあそぎが落ちついて定まるあたりが、あそぎの強さと二人の結びつきがなせる業という気がする。そうして二人が初めてシンとしたとき…「揺れて、光って、音がして、そして風が吹いて行くのだ、とおもう。」こういうときに冗談が通じるのは、いい関係が土台にあってこそだ、とおもう。
2013/11/17
方々亭
幸田文の小説を読むと、作者に叱られているような気になることに、今更ながら気がついた。父である幸田露伴に日常生活のあらゆる雑事をミッチリと教え込まれた、その生活に対する隙のなさが文章にも表れている。振り返って今の自分の生活の粗さっていうものを感じずにはいられないんである。
2023/02/03
ジャンズ
易しい言葉で綴る表現の柔らかさ、品格の中に激しい感情が静かに流れている。 最後まで引き付けて離さなかった。
2019/04/21
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