木 (新潮文庫)
木 (新潮文庫) / 感想・レビュー
やすらぎ
大切に読みたい本。礼儀深く多彩な自然を丁寧に記している。北海道のえぞ松、木曾の檜、屋久島の杉、それぞれの風貌と良質な感動を巡り、心の汚れを洗われ、心中に新しい養分を補給される。樹木と付き合える人はそれぞれに優しさがある。老樹と中年壮年の木、青年少年の木、幼い木が全て揃って林は元気なのである。蕾が花に、芽が葉になろうとする時、決して手早く咲こうとはしない。花はほころび、葉はたゆたいながらほぐれる。芽吹きを好く癖はここ数年、余計にその傾向が強くなった…幸田文氏。私はあなたをどこまで汲むことができたのだろうか。
2021/01/31
さと
幸田文さんが、まるで、木々を飼い、それらが育っていくさまを楽しむ様子を見るようだった。知識に依らず愛する者を慈しむ姿が無邪気で愛らしい。私が手にした本の表紙には、大木の根元に座し、その幹や枝を見上げる文さんの姿。語っておられるのだろうか、"目をぬらして"おられるのだろうか。二人?だけの間に交わされる“気”が伝わるようだ。私の感性を揺さぶり、その未熟さを知らしめる一冊だった。言葉を紡ぐというより体中からにじみ出る全て、吐息、汗、涙…ありのままなのだ。涙が出るほど心が震えて止まらない。
2017/03/23
優希
木にまつわるエッセイ集。木々を見つめる眼差しには木と交流することを楽しんでいるような姿が浮かび上がります。その優しさに包まれた想いは、その生命から生死の本質を見ているような気がしてなりませんでした。1本の木がやがて枯れゆく姿まで見据えているからこその生命の原点まで迫っているのだと思います。
2017/05/06
(C17H26O4)
木々の命を垣間見た。心を打たれた。木々の様々な姿が目の前に現れた。気分のいい林の様子には心が解放され、鼻腔に清々しい空気を感じて背筋が伸びるよう。一方、ねじれやこぶ、木々の生きる苦しみは人のそれと似ていて深く胸を突いた。アテのどうしようもないたちの悪さや、寿命を使い尽くした材の貴さ、これもまたひとつの姿。幸田文の木々へ向き合う真摯な姿勢、飾らない美しい文章が心の滋養になる。今後何度も読むと思う。
2019/05/02
ふう
凛とした一文字のタイトル。この表紙のように美しい木によせる作者の思いが、味わい深い文章で切々と綴られています。木を育てる人でも学者でもなく、ましてや木を扱う職人でもない作者が、これほど木に心惹かれ木を思う文にふれ、わたしもいっしょに森を歩き、木の生命に触れているような気持ちになりました。「えぞ松の更新」では、倒木の放つ静かで無惨な、でも人の命よりはるかに長い時間をかけて行われる更新や輪廻の神聖さに、「ひのき」の章では、同時同所に生まれながらまっすぐに伸びた木とかしいだ木の関係に切なくもなり胸を打たれました
2024/04/27
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