飢餓同盟 (新潮文庫)
飢餓同盟 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
物語は雪の降る夜の花園駅の場面に始まるが、全編を通して、印象的にはずっと夜、あるいは薄明の中に終始するかのようである。そもそも、この花園という地も、ほんとうに他の地域と繋がっているのかどうかも疑わしい。そう、何もかもが胡散臭くさえある小説世界なのである。カフカを、もっと泥臭く土着的にしたような、といえばいいだろうか。また、花井の抱く革命の根幹はアナーキズムにあるようだが、アナーキズムそのものが抱える矛盾を随所に露呈しつつ、挫折してゆく。とすれば、これは夢の崩壊の物語ということになるのだろうか。難渋な作品。
2018/06/14
優希
狂った欲望が蔓延していました。静かな山間の雪に閉ざされた小地方都市で疎外された者たちの革命。「飢餓同盟」の名のもとに団結し、権力に対決するかのように見たユートピア。夢物語だったのかもしれませんが、そこには全てに屈しない力を感じました。巨大な病棟のような町の中で抱いた野望は脆くも崩れ去りますが、強い信念で動いていたのだと思います。そこに人間の滑稽さが活写されているアイロニー。何ともシュールな作品です。
2016/04/23
かみぶくろ
権力や体制による閉塞を打ち破ろうと疎外された男たちが闘いを挑む話だが、結局その場でくるくる(狂狂?)コマみたいに回るだけで終わる救いのない話。なんか泣けてくる。主人公の劣等感や疎外のもとが尻尾が生えていること、っていう設定に、軽さと重さを同時に感じた。
2016/04/03
藤月はな(灯れ松明の火)
閉塞的でなあなあな村の政治性に反旗を翻し、自律していこうとした花井ら、若者たち。その為の手段も人脈もあり、計画は順調にいく筈だった・・・。自由の為に自律的に行動する事が奨励されると言えども、それが組織化されると自主性・自由性は押さえつけられるという矛盾。そして唾棄し、蔑んでいた者に利用され、手柄を横取りされるという不条理は現実にゴロゴロ、転がっている。そして歯車として搾取される事に疑問を持ち、躊躇う織木に対し、姉を引き合いに出す花井の言葉は利己的である。これは人間性と政治の両立の困難さを象徴している。
2022/07/30
かえで
地震の影響で温泉が出なくなり荒廃した町、花園。その町の温泉を復活させ「地熱発電」を計画し革命を目指した、町に馴染めない者たちの秘密結社(7人しかいないけど)「飢餓同盟」のお話。滑稽で残酷な物語。人間の狂気は滑稽さに満ちている、というのがこれでもかと描かれてます。ユーモア満載なのに、それが笑うようなものではない、というのは安部公房らしいです。最後に登場人物が語った数行が、この物語を表し、締めくくっています。飢餓同盟の人達の持つ、人間の狂気って誰しも持っているものです。現実は非現実よりも非現実…ゾッとしました
2019/05/15
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