無関係な死・時の崖 (新潮文庫)
無関係な死・時の崖 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
10篇の内、一見して荒唐無稽な設定をとっているのは「人魚伝」くらいのもの。後の作品は、日常から逸脱しながらも、それを大きく踏み越える世界を描いているわけではない。しかし、例えば「無関係な死」に見られるように、最初のほんのちょっとしたボタンの掛け違えから、しだいに異和が拡がってゆき、やがてはズルズルと奈落に引き込まれていく―まさに安倍公房の小説世界だ。個々の読者にとっても、それは「ありえない現実」ではなくて、「ありえたかもしれない現実」。不条理は突然に現出するのではなく、私たち自らの内にこそあったのだろう。
2015/01/11
遥かなる想い
短編集。初期のものらしく、後の作品への展開が予想される、不条理な題材が多い。ある日、身に覚えの無い死体が突然アパートの自室に現れる等の 設定はカフカの影響かなのだろうか…
2010/06/20
keroppi
「芸術新潮」の安部公房特集を読んだら、安部公房を読みたくなった。「いま読みたい」として挙げられていた「人魚伝」が目当てで読む。昔読んだことがあるようにも思うが、すっかり忘れているので、とても楽しめた。人魚の描写も凄いが、自分の分身が生まれ人魚に食べられ複製し自分を殺し自分を殺人犯として逮捕させ自分の存在が消えてしまうという、自己存在の危うさや、精神的迷宮が見事に描かれていて、やはり安部公房は好きだなぁと思ってしまう。この話、石ノ森章太郎が漫画化しているらしく、これも読みたくなってくる。他の収録作品もいい。
2024/03/23
キジネコ
「人間そっくり」の使者は確か32番目…この本の「使者」には33番目が登場致します。その瞬間、読者は「出た!」思わず「待ってました!」のノリで一気に安部ワールドにのめりこみました。10篇の短編。抜群の面白さ。純粋に好みで選べば「人魚伝」複製され増殖され続ける「ぼく」は本当に「ぼく」なのだろうか…?奇怪な物語群は遥か彼方の別次元の筈が、遠くを差した指が自身の後頭部に突き刺さる。作家は「人間」をバラバラに解体してみせ、そのまま何処かに消えてしまう。カタカタカタ…バラバラにされた現実の「私」は震えて笑うしかない。
2019/09/05
Vakira
アドレナリンの分泌の有無は、恋と、愛とを区別する重要なポイントなのだ。そして僕は緑色過敏症に罹ってしまう。それは難破船の確認作業中に出会った緑色の人魚の所為。コボさん版異類婚姻譚。出だしの文章はハッとするほどカッコイイ。小説とはなんぞや?哲学的な考察から入ります。勿論その文章は純文学してます。純文学とSFの融合。My壺で堪りません。コボさんの「人魚伝」目当てに読みましたが、他の短編もいいです。クセが強い登場人物。抵抗しながら翻弄される主人公。追う者は逃げる者、やがて逃げる者は追う者に・・・出たこのパターン
2022/11/25
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