R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)
R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
12の物語を収録する短篇集。長編『砂の女』にしてもそうなのだが、ここに収められた短篇のいずれもが湿潤な日本の気候風土からは遠い、砂漠のように乾燥した物語世界だ。しかも、そこは常に薄暗く、太陽ではなく月の光に照らされた冷たい空気感の支配する世界。また、そこに登場してくる人物たちのアイデンティティはきわめて希薄であり、したがって読者のアイデンティティも、しばし危機に瀕することになる。自己存在の拠り所の不安定さ、不確かさ―私たちは日頃はそれを疑うことなく安心しているのだが、実はそれこそが虚妄なのではないか。
2014/06/30
徒花
まあまあ。直前に高橋源一郎なんて読んだせいか、かなりわかりやすく感じた。でも、読みやすいとは言えないかも。表題作であり、最後に収録されている「鉛の卵」は星新一っぽいSFでおもしろい。あとは「人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち」かな。全体的な傾向として、主人公が何らかの理由でロボットや幽霊、あるいは木の棒などに変身してしまうものが多い。オチはあったりなかったり。
2020/05/25
藤月はな(灯れ松明の火)
「R62号の発明」はドラマ版『ウエスト・ワールド』の人間嫌いの人は「美しい」と思うような最終話を思い出してちょっと小気味が良かったです。「犬」は犬の比喩が何なのか想像するのが乙かな。「死んだ娘が歌った」は死体も利用されたのに誰からも愛されず、感謝されなかった少女の悲惨さを描いた「少女磔刑」みたいだけど、安部公房版はあっけらかんとしているのが救いかな。「盲腸」は人間の尊厳を勝ち取った自由意思に対して、以前の人間の尊厳がない方が唯一の解決策だったことを知らしめる圧倒的な現実の差に身震いせずにいられない。
2017/02/11
鱒子
著者30才前後の12作の短編集。化学実験の話、死者の魂の話が多く、シュールな世界観。いずれも語られるのは、普通の範疇から外れた異質の者たちの、静かな悲しみと狂気。「鏡と呼子」は名作 砂の女を彷彿とさせる。「耳の値段」はメタ作品で、いきなり作者の名が出てきてドキリとさせられました。
2022/01/18
つねじろう
最初に読んだのは確か高校一年の夏だ。星新一から筒井康隆に移行してたくらいに友人から渡された。面白いよって。その時は読むには読んだものの全然楽しめなくて悔し紛れにこの作者は不幸な男だ世の中に不満を持ってるいや自分自身に大きな不満があるんだ。だから余裕も無いからオチも無いんだ。とその友人にメチャメチャ絡んだ。オチかぁって彼は嬉しそうに笑ってた。部活終わり駄菓子屋の火照りが残るベンチに並んでソーダバー齧りながら。だからこの作品はソーダバーの味がする。この年齢になってオチも分かってやっとその時の友人に追いつけた。
2017/08/04
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