石の眼 (新潮文庫 あ 4-10)
石の眼 (新潮文庫 あ 4-10) / 感想・レビュー
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巨大公共事業であるダム建設の裏では醜悪な私利私欲が絡み合い、表は綺麗に整えられた大義名分に飾られ推し進められる。そんな大層な事業でも建設現場という人間個々のミクロの世界ではどんな世界にも存在する猥雑な私情に満たされている。その滑稽ですらある私情が無意味に迷走し、あるいは巨大事業の欠陥を覆い隠し歪に変形させ暴走させる。そんなダム建設の姿が描かれているが、推理合戦を繰り広げるミステリー仕立てが主題の持つ力を弱くしているように感じてしまい個人的には惜しい。
2014/07/23
hiro
僕が安部公房をよく読んだのが約50年前、まだ20代の1960年代半ば頃。そして時系列で再読していくことに・・・1960年作の長編小説4作目。そして「飢餓同盟」に継ぐ日本の社会的テーマ2作目。安部公房はこのダム開発のテーマを書くに当たっていくつものダムを取材したらしい。物語はダム工事の経過で生じた"偽凝結コールド・ジョイント"の疑いを巡る。偽凝結を認めれば工事は遅れ損失となり、そのまま工事を進行させその後欠陥が生じたら大変なことになる。そこに別々な利権を担う担当達の様々な思惑。そして起こった殺人未遂事件。
2020/07/01
東森久利斗
社会派なテイストが色濃く表れたリアリティな世界、他の作品とは一線を画す異色作。激動の時代、刻々と移り変わる社会情勢、ライフスタイル、思想、価値観の変化。無視できない、変わることを求められる、文学界をも否応なく巻き込んだ変革の波。巨匠も人の子、得体の知れない焦燥感にさいなまれ筆を執る姿が目に浮かぶ。迷走感、束縛感を感じずにはいられない。古書市場にて入手激難レベルの希少本、所有しているだけで満足。
2024/05/07
@第2版
なるほど数多ある著作のなかで絶版になった稀有な作品というだけあって、初めから終わりまで何ともあてはずれの感覚が凄まじく、興も一向に乗らず、端的に言ってまるで面白くなかった。「ダム建設工事をめぐる完全犯罪を推理小説仕立てで描いた長編がこの『石の眼』である(解説p239)」のだが、その閉塞的状況下における緊迫した展開というのが甚だ先細りで、例えば中盤以降は、≪階段に、そこを通る人を躓かせるための石を誰が置いたのか≫という問答を繰り返し登場人物たちがしかつめらしくこねくり回すだけなのである。味の失ったガムを延々
2021/09/05
人工知能
絶版となっている本作品。解説によると砂の女の前の試行錯誤的作品で、社会派推理小説。ダムをめぐる現場で起きた殺人未遂事件をめぐって、登場人物が互いに疑心暗鬼になっている様を描くと同時に、ダム工事にまつわる関係者の欺瞞も描く。安部公房っぽくはなかった。
2014/10/13
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