密会 (新潮文庫)
密会 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ある夏の朝、突然に救急車がやってきて妻が拉致される。妻を探す「彼」の前に現れるのは紹介代理業者などという面妖な者たちばかり。しかも、それはいたって日常的な風を装ってもいる。始まりから小説の半ば頃までは、カフカの『審判』の世界であるかのようだ。ただし、それは限りなくウエットで、あろうことか私小説の趣きを持って語られる。三人称での語りは、あくまでも仮構なのだから。そして、終結部では一転して演劇的な指向性を高めるのである。ただし、それは安部公房のそれではなく、どうしたことか寺山劇に近い目くるめく世界なのだが。
2017/08/16
YM
素晴らしく訳わかんない安部公房ワールド。そんな世界に迷い込んじゃいたくて読んでるから正解なんだ。奇怪な登場人物が多いけど、意外と馬人間の気持ち悪さ、滑稽さは身近な存在に感じられた。でも何といっても本書の魅力は溶骨症の13歳の少女。何て美しく儚いキャラクターなんだろう。無垢でエロティックで永遠だ。彼女は僕のミューズになった。
2015/01/02
のっち♬
救急車で連れ去られた妻を捜すため巨大病院に入り込んだ男の行動記録。監視と性の問題を扱うのに病人と医者の権力関係は著者にとって因果な題材。不可視の監視システムで自主的服従が成立する点でディストピアの有名作と一線を画しており、より現代的なテクノロジーを予見したテーマを孕んでいると言える。気がつけば依頼主なしで書き続ける書き手。監視する・されることへの依存は自己規定を他者に委ねることに他ならない。後半における断片化した描写はこれを揶揄するかのようだ。見せたいか見せたくないのか、人間の嗜好はどこまでも流体なのだ。
2017/12/26
ナマアタタカイカタタタキキ
私にとって安部公房は二冊目。浅い眠りで見る悪夢みたいな作品だった。昭和のアングラ漫画のようなカオス。迷宮じみた巨大な病院という舞台がその印象を一段と強める。──本来生殖とは、各々の個体の属する系統の間で互いの遺伝子を交換し合う行為であるが、社会生活において、その営みを促す性愛は、清楚なベールで覆われ、その生々しさを直視しないよう配慮されている。同時に、扇情的なコンテンツや性の薄利多売が、日常から遠からぬところに蔓延っていることも私たちは既に認識している。白いベールの中で蠢く赤黒いマグマを知っている。では→
2021/12/16
つねじろう
再読、安部公房の密会が読メで4桁を稼ぐことに流石感とちょっと行っちゃってる感を思う。普通読まないでしょこの手はと言ったら叱られるか。高校時代はグラビアアイドル的な救急車に拐われた奥さんと膝小僧自慢の秘書をもっと出せよという記憶しかなかった。50年弱経った今でも同じ所で反応するパブロフの犬的な自分を発見して軽く感動する。中身は相変わらず一旦入ると出口が見えない世界。その舞台が病院というとこも歪みや不安定感を生む。登場人物全てエキセントリックMAXで、展開も全盛期の山下洋輔トリオを彷彿とさせる。楽しめました。
2020/08/26
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