方舟さくら丸 (新潮文庫)
方舟さくら丸 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
大江健三郎が言う「核時代の想像力」の安部公房による解の結晶がこの小説。この二人の小説作法は大きく違うが、まさしく彼等は共に作家として、同じ時代を生きたのだ。核戦争後にも生き残るべく構想された「方舟」。しかし、それ自体が空想と虚妄の産物であったとすれば。仮に、核戦争後も生き残ったとして、その時に自己のアイデンティティを何処に求めるのか。そもそも、それ以前に自己の拠り所はあったのか。誰が方舟に乗るのか。無条件の前提としていた自分にはその資格があるのか。小説は、こうした様々な問いかけを投げかけてくる。
2014/10/10
遥かなる想い
当時、本好きな学生が好んで買った新潮社の純文学書き下ろし特別作品として購入した。正直難解すぎて、わからなかったが、錯綜する物語の中で安部公房はかなり「核」を意識していたのだ、と思う。地球は核により、滅びるという潜在化された意識があり、シェルターは自然に受け入れられる世界だった。「方舟」という言葉で何を示唆しようとしたのか…登場人物も、奇妙で入りずらい。
2010/06/20
♪みどりpiyopiyo♪
読書会の課題図書で安部公房さん初めて読みました。予想に反して、特段難解な所もなくすんなり読めたよ。■このお話は 80年代日本のドン・キホーテなのかな? って思ったけど、出てくる人は、嘘つきで 真剣で 滑稽で。本当の方舟に乗ったのは誰だったのでしょう。残った2人には、後に女の子達を逃がす役割をしていて欲しいなぁと思いました。■ …で、初めて読んでみた安部公房さんの印象は「昭和の下品なおっさん」で確定し、筒井康隆さんとかと同じ脳内フォルダに入りました (๑°ㅁ°๑) (1984年。1990年 文庫化)(→続
2017/01/13
まる
大学生以来の再読。ずいぶん印象が違った。。。核戦争の恐怖というよりただの孤独な男の話という感じがした。男がユープケッチャという架空の虫(自分の糞を食べて永遠に生き続ける)に惹きつけられるのもわかる気がする。読書会の題材だが 読むのに苦労した作品(苦笑)。
2016/12/29
のっち♬
世界滅亡の危機に備えて作られたシェルターで繰り広げられるサバイバルゲーム。著者にしては構成や文体が比較的平明だがエキセントリックな人物造形・光景、豊潤な寓意など今作も幻惑的。猜疑心に凝り固まった人間のエゴがグロテスクに濃縮されていて、ブラックユーモアや隔離感が際立っている。便器から足が抜けなくなった主人公、何でもかんでも水に流そう(ご破算)とするなという人間の原罪への問う声が聞こえてきそう。自己完結は幻想でしかない、方舟は開かれるためにある。災厄を逃れて引きこもりたがる現代人には耳の痛いテーマではないか。
2020/01/18
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