留学 (新潮文庫)
留学 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
遠藤周作にとっての永遠の問い―すなわち、我々日本人にとってヨーロッパとは果たして何であるのかが物語の形をとって問いかけられる。変則的な3章構成をとるが、その中核をなすのは第3章「爾も、また」であり、この章では遠藤自身のフランスへの留学体験と、サド研究の意味を自らに問い続けることに費やされる。他の2つの章は、いわばそうした問いの通時制を保証するものであり、未来への暗い絶望をも語るものである。3章の主な舞台は冬のパリなのだが、その暗くせつないまでのリアリティは、痛切なまでに読者に迫る。遠藤文学の原点回帰の書。
2017/02/14
優希
3章からなる、3人それぞれの留学を描いた物語。時代こそ異なれど、留学という異文化に触れることで感じる悩みや壁に挑む姿が印象的です。宗教や文化の違いの精神的な風土の中で見つめるものは「外の世界」ではなく「己の世界」なのかもしれません。現在のように異国にいても異国を知ることができる時代と異なり、異国ではその国の内にあるしかなかった時代の留学は孤独との戦いであったのかもしれません。
2018/04/11
こばまり
狐狸庵先生はエッセーを除きこれで3作目の読了だがいつもしんどい。主人公の人生に何ら己との共通点がないように思えても必ずや胸苦しさに捉われてしまう。この陰陰滅滅な気分を如何にせんと留学経験のある上司に笑えるエピソードを披露してもらった程だ。
2020/10/25
ゆかーん
時代の異なる3つの「留学」小説。フランスへ留学した3人の日本人が、文化や宗教の違いに苦しみながら生きる姿が描かれています。『沈黙』に似た『留学』という物語や、ザビエルに憧れて留学する青年の『ルーアンの夏』など、キリスト教に関連した話が満載です。『爾も、また』では、「サド侯爵伝」を熱心に研究する、田中のサドへの想いが切実に伝わってきます。サドがキリスト教を毛嫌いするように、彼自身も日本にいる嫌いな後輩から逃れようとフランスに留学しますが空回ってばかり…。挫折と孤独の板挟みの中で寂しく生きる姿が印象的でした。
2017/10/15
aika
留学の二文字からは想像もしなかった、あてもなく暗闇を彷徨うかのような憂鬱さに苦しめられ、「巴里」という漢字表記を目にしただけで石畳の冷たさが立ち昇ってくるかのようでした。日本人に布教の夢を無意識の内に押し付ける人々にへつらう神学生の工藤。弾圧覚悟で帰国せざるをえなかった禁教時代の日本人司祭・荒木トマス。フランスに到着するやいなや、誇りも何もかも打ちのめされてしまう仏文学者の田中。ヨーロッパという文明の前に立ち尽くし、敗れ去る彼らの姿からは痛みと同時に、本意気で異国で生きようとした足跡の確かさを感じました。
2022/06/02
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