女の一生〈1部〉キクの場合 (新潮文庫)
女の一生〈1部〉キクの場合 (新潮文庫) / 感想・レビュー
遥かなる想い
愛する人のために、役人に体を奪われたあげく、遊郭に身を落としながら仕送りをする、キクの人生は思わず涙なしでは読めなかった。舞台は長崎でここでも隠れキリスト信者を登場させ、物語に緊迫感を与えている。歴史の裏でおこなわれていたであろう様々な迫害を、キクという女の人生・悲恋を描くことで現代に伝えてくれる。
優希
切支丹弾圧の歴史に沿った恋愛と信仰を描いているのが心に刺さりました。キクの清吉への想いが切なかったです。彼女の心の叫びが聖母マリアへと悪態のように響くのが、キクの中にある恋心の全てだったのかもしれません。イエスの寄り添う姿は勿論のこと、マリア信仰が色濃く出ている作品だと思います。最後にマリア像の前に倒れこむキクの姿が印象に残りました。
2017/07/13
アン
幕末から明治維新の長崎。商家に奉公に出たキクは幼い頃助けられた清吉と再会。清吉は拷問にも屈せず信仰を貫き通す隠れキリシタン。「浦上四番崩れ」と呼ばれる迫害事件の史実に沿い、清吉に無償の愛を注ぐキクの生涯が描かれ、その純粋で命懸けの想いは辛く痛ましい程。一方で拷問を加える役人伊藤は残忍で非道な人物で、ひたむきな強さに対し人間の卑しさや弱さが浮き彫りになりますが、著者の人間を見つめる眼差しは優しく、愛と救いについて問いかけられるよう。雪が舞う中、キクと聖母マリアの眼に溢れた尊く白い泪の美しさに心が震えます。
2021/04/26
夜間飛行
「神さまは本藤さまよりあなたの方を愛しておられる」というプチジャンの言葉が忘れられない。出世の道を駆け上る本藤より、罪にまみれた伊藤に神はひかれるというのだ。一方、伊藤に犯されながら清吉への愛を貫いたキクには、聖母の「あなたは少しも汚れていません」という声が聞こえてくる。作中人物ならずとも「神はなぜ人に苦しみをお与えになるのか」と問いたくなるが、周作先生はそれには直接答えず、神の愛がいかに伝わるかを丁寧に描いている。そして最後は、伝道に生きたプチジャンによって、憐れな男の心に一輪の花が咲いたように思える。
2013/07/21
雪月花
『沈黙』は17世紀の切支丹弾圧を描いた小説だったが、本作は幕末の長崎での『浦上四番崩れ』という切支丹迫害事件の史実を元に書かれたもので、非常に辛い読書となった。特に浦上の地を追われ津和野に流罪となった切支丹たちに対する拷問は凄絶すぎて苦しくなった。切支丹の清吉を愛してしまい、自分の体を売って命を犠牲にしてまでもお金を作って津和野で拷問を受ける清吉を救おうとしたキクに、神の無償の愛に通じるものを見た。そのキクを利用して金を搾取する伊藤清左衛門の狡猾さと葛藤、本藤舜太郎への嫉妬心にまた人間の弱さと本質を見る→
2021/04/29
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