満潮の時刻 (新潮文庫)
満潮の時刻 (新潮文庫) / 感想・レビュー
優希
突然の病から生死を見つめることになるのが印象的でした。入院生活の中で出会う自分より死に近い人、儚い命の消えゆく様。死の淵に立たされて彷徨う絶望感の中で、信仰が見えることだけが一筋の救済だったように思います。唐突にキリスト教が出てきますが、周作先生の背景を考えれば納得がいきます。周作先生の文学の全てが貫かれた作品と言っても良いでしょう。
2018/04/22
アルピニア
遠藤氏が自身の闘病体験を書いたと思われる作品。1965年に氏の代表作の1つである「沈黙」と並行して執筆(連載)されたが、ずっと未刊のままで氏の死後(2000年)に刊行された。主人公の明石は死を意識する中で、日々の生活では見えていなかったものや意識の奥底にしまわれていたものに気づく。九官鳥、主が自死した森を見つめる犬、踏み絵のキリスト。彼らの瞳が言わんとする言葉を求めて明石は長崎へ向かう。そこで彼が聞いたのは・・。氏のその後の数々の作品を貫いているテーマを掴み取る過程に立ち会ったようでとても感慨深かった。→
2019/04/30
びす男
病院に漂う生死の近さが、作品全体の雰囲気を形成している。生活すること、生きること。最後の方できっちりキリシタンの話が出ているあたり、やっぱり遠藤周作だなぁという感じ。主人公は「生活」に帰っていくが、入院中に感じた「眼」を見失うことはないだろう。ただ、そうまとめると、ちょっと陳腐な気がしなくもない。
2016/03/15
活字の旅遊人
作者没後に出版された一作。解説によると「徹底的に手を加える」予定があったとのこと。大作家で既にこの世にいない方であるから、未だ発表できないとご本人が思っていたとしてももう止められない。読み手の僕たちもお金を払い、夢中で読んでしまうのだ。作者自身の治療療養体験から産み出されたいのちを巡る作品は、親しみやすさの中に大事なことを静かにちりばめ、そして作家のファンを唸らせる。なるほど、ここで繋がるか。長期入院になるなら、なったならベッドサイドに持っていきたい一冊だが、さてやはり医療は日進月歩。そこは全然違います。
2022/07/25
優希
突然の病から命を見つめるというのが凄く刺さります。はかない命の終焉を見つめるほど辛いことはありません。結核がまだ命に関わる病であった時代に、死の淵に陥った男の心はどこを向いていたのか。生とし、信仰と宗教というテーマは、キリスト教作家である周作先生ならではの世界なのでしょうね。
2022/07/11
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