見るまえに跳べ (新潮文庫)
見るまえに跳べ (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
大江の言によれば、作品集『見るまえに跳べ』は、『飼育』や『芽むしり仔撃ち』などとともに、1957年の後半に一気に書かれたものであるらしい。まさに大江初期の量産期である。それにしても、これらの作品群は、今にいたるも何と瑞々しい輝きを放っていることだろう。もっとも『見るまえに跳べ』は、退行と惨めな日常への埋没の物語ではあるのだが。日本は戦後を払拭しつつあったが(もっとも、それもまた欺瞞的なものであることがガブリエルによって暴露されるが)、ベトナムではべトミンがフランスに抗し、またアルジェリアでも独立戦争が⇒
2023/05/01
かみぶくろ
4.1/5.0 十の短編からなる作品集だが、どの作品も既にめちゃくちゃ大江けんざぶっていて素晴らしすぎる。特に「奇妙な仕事」や「運搬」など、徒労っていうテーマが個人的にすごく好き。デビュー作からこんなの書いちゃって、どんだけ熟れ切った大学生なのよって感じ。
2022/04/03
Gotoran
処女作「奇妙な仕事」~「下降生活者」まで、大江健三郎が時代の旗手として名声を博しながらも悪評された中、充実した作家生活を歩み出した時期の10篇の作品を収録。表題作『見るまえに跳べ』では”政治と性”の主題をはじめて取り上げ、「後退青年研究所」では政治における挫折の問題に取り組んでいる。その他、残り8作品も含め、当時の学生運動盛んな時期の若者の自己欺瞞と鬱屈、葛藤といったドロドロした内面感覚を味わうことができた。いずれも閉塞感が漂っていた。
2021/07/28
Y2K☮
表題作と「ここより他の場所」「下降生活者」のカッコ良さ。三島と太宰の長所だけを兼ね備えた様な。見るまえに跳ぶのがクールという話なら「創作だし」で終わる。そうじゃない。空想や綺麗事ではないもっと切実な葛藤。それを最大限リアルに産地直送で描写するのがカッコいいのだ。「下降~」なんて実体験かと勘繰ったほど。江戸時代の戯作は作者がもう一人の自分を演じる場だったらしいが、誰にでもそういう願望はある。なりたい自分。なりたかった自分。恰もSNSと現実の齟齬。矛盾を抱えつつバランスを取ればいいと思うのは私が凡人だからか。
2017/06/21
おさむ
1950年代末の大江健三郎初期の作品群。動物殺し、同性愛、青年期の鬱屈、そして性愛…あの石原慎太郎も真っ青の過激さ。当時は「時代の旗手」だったそうで、60年安保の頃の若者たちの心象風景が垣間見えます。20代の頃の文章って、どの作家さんも勢いがあって良いですね。
2016/02/11
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