洪水はわが魂に及び (上) (新潮文庫)
洪水はわが魂に及び (上) (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
1973年の作品。勇魚とジン2人だけの核シェルターでの閉塞した生活は、自由航海団の行動に巻き込まれて行く。もちろん、その背景には前年1972年の連合赤軍による浅間山荘事件が色濃く影を落としていた。凋密な大江の文体は、その世界に入り込みにくいが、自由航海団の運動体としてのエネルギーは、ねじ曲がりながらも次第に勢いを増していくようだ。下巻ではジンの存在が救いになるのだろうか。
2012/05/12
がらくたどん
初読は40年近く前。この作品の後半(つまり下巻)は文句なく面白い。なんたって籠城戦でドンパチなので。でも前半がこんなに面白かったなんて。多少は年の功かも?郊外の計画倒れシェルターに引籠る野鳥の声を愛する知恵遅れの幼児とその過去激ヤバ教養父ちゃんが近所に潜伏する「自由航海団」を名乗るドロップアウト集団に出会いジワジワと交流し始める。浅間山荘事件の記憶が鮮明だった初読時はイデオローグ対立の図式に引っ張られて読んでいたが、今読むとレールに乗れなかった若者が自爆的に閉塞を突破しようと藻掻く物語に思えた。下巻読も♪
2023/04/06
ネギっ子gen
【哀悼の意を表して――】「袴田さん再審決定」の朗報に喜ぶも、この悲報……。朝日新聞の追悼文で池澤夏樹氏は、<彼の小説のタイトルをみればそれがそのまま詩であることは歴然としている>と。全面的に同意。『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』なんか好みの題名。本書発売時には講演会にも行った。『カラ兄』ゾシマ長老「祈り」の箇所に感銘。大江健三郎は詩人にして求道者だったと思う。その求道者の一面が強く出るのが、『人生の習慣』の「信仰を持たない者の祈り」になろうか。1987年東京女子大学で行われた講演を文書化したもの。⇒
2023/03/14
メタボン
☆☆☆☆ 大江の粘っこい中にも独特なユーモアがある文体、この小説では粘っこさの割合が高く、ユーモア成分が薄まったように感じられ、その分読み進むエモーション、テンションが下がる具合に感じられもするのだった。避難所(シェルター)に引きこもる勇魚(大江自身を投影)とジン(大江の息子を投影)が、「自由航海団」により外へと連れ出される。重要な役割を果たす伊奈子は果たして娼婦にして聖母の象徴か?発熱し敵対するボオイは連合赤軍の悲劇の象徴か?そして最大のトリックスター「縮む男」の引き回しにより、我々はどこへ向かうのか?
2021/01/23
おか
10代後半で読んだ「飼育」(芥川賞)が余りに難解で ずっと読むのを避けていた大江作品。今作も 読み始めて 彼の独特の世界に もがきながら 身を投じ 慣れるのに 時間を要した。彼自身の息子さんも ジンと同じように知的障害がある。その息子への 愛情そして執着が 酷いほど赤裸々に描かれている。そして シェルターで逃避行している親子に関わってくる若者たち、、、今の所 親子と若者達の未来は全く見えて来ない。これから 木と鯨の魂は如何に関わりを持ってくるのか そして ジンの未来は、、、 下巻に進もう
2016/07/03
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