洪水はわが魂に及び (下) (新潮文庫)
洪水はわが魂に及び (下) (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
核シェルターの中で壮絶なまでの死を迎える勇魚の姿は、世界の終末の喩であるかのごときだ。この巻では権力の圧倒的なまでの暴力が、きわめて具体的なものとして語られるとともに、一方では自由航海団の夢は抽象的なままに崩壊してゆく。鯨が鳴き交わす声に包まれたエンディングは、ディストピアながらも感動的でさえある。
2012/05/13
遥かなる想い
明日なき人類の畏れのようなものを「ノアの洪水」になぞらえながら、書いたのだとは思うが、やはり私には難しかった。正直投げ出したくなるのを 抑えながら、毎日ページ数を決めて読みきったのだが、「読みきった」という読後感しかなかった。「鯨と樹木の代理人大木勇魚(いさな)」と言われても困惑するだけだった。
2010/06/19
がらくたどん
一人の男が自分を粛清させる事で現実社会からのただ強烈で切実な逃亡願望を共有するピーターパン集団だった「自由航海団」を暴力的な反抗集団へと変えていく。変化への自覚を欠く暴徒化は急傾斜を蛇行しながらひたすら下るよう。外側の社会が「革命」と呼んでも社会復帰を保証しても少年達はピンと来ない。そりゃそうだ。とにかく逃げたかったのだから。社会から逃げる選択肢が不要な正しく強い社会人と逃げずに留まる技術に欠ける少年達との噛み合わない戦闘は虚しいが存在以外の社会的役割を持たない幼児がまだ生きている事で希望として浄化される
2023/04/09
メタボン
☆☆☆☆☆ 圧倒的な想像力と心を引き付けてやまない独特な文章。勇魚との性のレッスン(エクササイズの方が合うか)によりオーガズムに至る伊奈子。カタストロフに向かって疾走する「鯨の腹の中より」以降の終盤は、日本文学最高の到達点と言って過言ではない。今その章名を書いて気づいたが、機動隊との抗戦を繰り広げる核シェルターは、「鯨」のメタファーであったのか。鯨の歌の中で水没していく勇魚の最期。「樹木の魂」「鯨の魂」にむけて、かれは最後の挨拶をおくる、すべてよし!あらゆる人間をついにおとずれるものが、かれをおとずれる。
2021/01/24
おか
勇魚そして「自由航海団」、国家権力である警察 そして人類全員に「バカヤロウ!」と叫び出したくなるような読後感だ。サトザクラが黒焦げになった瞬間に悟った、この地球を全滅させるのは人類だと。物凄く極端な描き方をしてはいるが 大江さんの愛を感じる。勇魚の最後の「すべてよし」を受け入れることはできない。死の美学は決して許せない。言葉を駆使させよう、この物語のように、、、先日テレビで 浅間山荘で逮捕され刑期をつとめた一人の「私刑で兄を殺した」と言った時の遠くを見る目を思い出す、、、
2016/07/06
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