華岡青洲の妻 (新潮文庫)
華岡青洲の妻 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
父・直通、母・於継の代から語りはじめられる。すなわち、伝統的な説話形式をとる。これに青洲の誕生伝説が加わり、そこに請われて嫁いで行くのが「華岡青洲の妻」加恵である。於継と加恵との嫁姑の確執はいたって熾烈であった。このあたりの複雑な心理劇としての葛藤が本書の一番の読みどころだ。自らが麻酔の実験台となってゆく加恵は、もはや壮絶でさえある。青洲その人は医の天才であり、また努力の人でもあったが、常に嫁姑の確執の圏外に身を置いていた。これはあくまでも「妻」の物語なのだ。もっとも終章は青洲の顕彰に終わっているが。
2020/02/21
遥かなる想い
世界で初めて全身麻酔による手術を行った華岡青洲の物語。華岡青洲の麻酔の研究の陰には妻と母の献身があったという。薬の人体実験に自ら身を捧げた、妻と母の確執が本当にあったかどうかの真実はよくわからないが、麻酔薬完成に向ける青洲の執念のようなものを感じていた。
2004/01/01
やいっち
「世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした」という物語。 (中略)
2022/06/04
hit4papa
世界初の全身麻酔を用いた乳癌手術で有名な華岡青洲の物語。といっても、主役は実験に自らを供した青州の妻加恵です。もっぱら加恵と青州の母於継の犠牲の元の成功という美談として取り上げられますが、本作品は、随分、様相が異なります。於継に請われ嫁入りした加恵。まだ見ぬ遊学中の青州より、於継の美貌に惹かれて婚姻を望みます。しかし、青州が帰郷するや、嫁姑の亀裂が生まれ、やがて内なる憎悪に発展していくのです。人体実験は、嫁姑のそれぞれの意地の張り合いの果てという視点が面白いですね。女流作家ならではの愛憎劇です。
2022/07/12
新地学@児童書病発動中
江戸時代に麻酔を使った手術を行った華岡青洲の妻と母の確執を描く長編。嫁と姑の対立という普遍的なテーマを鬼気迫る内容で表現している。麻酔の実験台になるのを妻と母が争う場面ではブラックユーモアさえ感じた。嫁姑問題を扱いながら、女性を家の従属物とみなす封建的な社会に対する作者の強い怒りが透けて見えるような気がする。感傷を排した引き締まった文体が素晴らしい。女性として生きる辛さを男性に教えてくれる作品。
2013/12/28
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