移植医たち (新潮文庫 た 79-9)
移植医たち (新潮文庫 た 79-9) / 感想・レビュー
ぶち
臓器移植を発展させてきた医師たちの物語は、思っていたよりも辛いものでした。移植医たちは精神と体力の限界を超えて闘い続けます。道を切り拓く者たちの苦悩に打ちのめされそうになりがらも読み続けられたのは、命を救う医療の未来に希望が見えてくるからでした。脳死を人の死として心情的に受け入れ難い日本では、臓器提供が定着していません。そんな環境で一人でも多くの命を救うため、様々なタブーに挑戦し、移植医療の定着を目指した移植医たちと彼らを支える家族や患者の物語に希望も見えてくると同時に尊敬の念も抱かずにはいられません。
2021/06/17
ふじさん
移植医療を背景に、臓器移植に命がけで挑む人々の圧巻の人間ドラマ。前半の主人公たちのピッツバークで奮闘するシーンは明るく乾いたタッチなのに、後半の帰国後の苦闘の場面は陰鬱で暗い色調で描かれる。そこには、悲しいかな日本の医療界の現実があった。医者でない作家が書いたことで、専門医学小説から人間ドラマに軸足が移り、却って臓器移植という医療の本質が浮き彫りになったように思う。患者を助けたという医者の純粋な感情と新たな道を切り拓く者の孤高の苦難が絡まり、臓器移植の複雑さがシンプルなタッチで鮮やた力作。
2022/05/13
あすなろ
ノンフィクションかと勘違いするほど徹底取材に裏打ちされた移植医療小説。海堂氏激賞と帯にあるがそのとおり。84年札幌医大の和田教授による心臓移植についての本は渡辺淳一氏始め複数読んだが、これはその後として99年迄の系譜に連なる。移植医療、それは人智を超えた領域の出来事と今でも感じると米国での日本人医師達に谷村氏は語らせているがその通りだろう。移植医療の進展にも目を見張り一気に読むのであるが、米と日の差、そして内に秘めたる恋や愛も上手く取り入れられており、久しぶりの医療小説を僕は一気読みしたのである。
2020/04/30
夜長月🌙@新潮部
脳死による臓器移植は日本では遅々として進んでいません。今でも渡米して心臓移植をすることがニュースになったりします。この日米の差は何なのでしょうか。本作品では前半で日本から留学した医師たちのアメリカでの移植医としての輝かしい活躍が描かれています。そして後半では帰国して日本に移植治療を広めることの困難さが事実ベースで描かれます。貴重な命のリレーを阻む壁は厚そうです。私たちがまずできることは免許証の裏に臓器提供の◯印を入れることです。
2021/01/14
けんとまん1007
一部、目にしたことのある言葉もあるが、やはり想像を絶する世界だと言うのが、第一印象。何ごともそうなのだが、現在の状況に至るまでまでには、エポックメーキングな場面がいくつもある。命に関わることだと、更にハードルが高くなる。数多くの戸惑い、決断、自問自答があったと思う。人は人を思うことで、先に進める。
2020/05/18
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