青べか物語 (新潮文庫)
青べか物語 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
若き日の山本周五郎が昭和7,8年頃に一時期居を構えていた浦安を描いた小説。主に江戸期の武家社会、あるいは江戸庶民の哀歓を題材としてきた山本にはやや珍しい。ただ、この時期にはまだ後年のスタイルは確立しておらず山本自身の模索期にあったようだ。タイトルの「青べか」(一人乗りの小型舟)は、そんな無為の山本を象徴するようでもある。この時期の浦安はなんとものどかでありつつ、近代化の波に飲み込まれていこうとする周縁の土地としての性格を強く表象している。しかも、時間の連続性を欠き、そこには「今日」しかないかのようだ。
2021/09/14
遥かなる想い
山本周五郎 1961年の短編集。 ひどく昭和的で 庶民の心暖まる交流が不思議に懐かしい。 舞台は浦粕町という漁師町で 青べかを 買った先生の視点で物語は進む..荒っぽいが 裏がない人々の生き様が 本に残っている、 そんな物語だった。
2017/02/11
新地学@児童書病発動中
現在の浦安市が舞台の連作長編。山本周五郎にはめずらしい現代小説だが、書かれている内容は作者の時代小説と共通するものがある。きわどい話もいくらか含まれており、ユーモラスな筆致に笑ってしまった。貧しさゆえにその日暮しをしている人々の生き様が、感傷を抑えた練達の文体で描かれている。一読しただけでその場の情景が鮮やかに浮かび上がってくる文章は見事だ。崖っぷちの状態を生き抜く人々の狡さや逞しさに翻弄されながら、読み手は自分の人生を生き抜く力をこの小説から得ることができる。
2016/08/03
じいじ
著者の年譜によると大正15年~昭和4年まで、千葉県浦安に棲んでいた。今作は、その青春時代の体験をもとに書かれた現代小説です。当時の漁師町・浦安(本書では浦粕)の貧しいながらも懸命に生きる人々の日常、長閑な町や周辺の情況が暖かい筆致で綴られています。私は周五郎小説の女性の描写が、恥じらいがあって無骨な感じが好きです。ちょっぴりエロくて淫靡でないのが、可笑しくて面白い。ところどころに鏤められた周五郎哲学には、一瞬立ち止まって考えさせられます。周五郎小説は、どれも奥が深いです。
2019/09/08
nakanaka
山本周五郎の日記を基にした私小説。彼は大正から昭和にかけての三年間を現在の千葉県浦安市で過ごしており、当時のことを笑いあり涙ありの短編集として綴っています。作中では浦安ではなく「浦粕」と名前は変えていますが。当時関りがあった人々の一風変わった言動などのエピソードを集めた作品で変わり者が大半なのですがどの人も個性があり愛すべき存在に思えてくるから不思議です。全体的に下品なエピソードが多めな気もしますが当時の人びとの貧しさや時代背景を鑑みれば納得です。特に「白い人たち」はインパクト大です。面白かったです。
2017/02/28
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