季節のない街 (新潮文庫)
季節のない街 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
戦後それほど時代の経っていないと思われる、とある町の長屋舞台の短編集。この長屋の住人たちがことさら貧しかったというわけでもなく、おそらく日本中がまだまだこんな感じだったんだろう。どれも読み終わってかすかな郷愁&既視感を感じる…日本人の根底を描いているからだろうな。映画『どですかでん』の原作を奇しくも読め、開高健の親しみにあふれた解説も良い。山周さんにはもう少し女性を勉強して欲しかったところだが、言っても詮ないことだ。
2021/01/16
みも
戦後…昭和20年代後半~30年代前半あたりかと思われるが、その流暢且つリズミカルな語りは、江戸庶民を映した古典落語を思わせる。隙間時間でも楽しめる1篇30頁程度の短編15篇で、貧民街に逞しく生きる庶民の行動や思いを赤裸々に綴る。ペーソスとユーモアと少しの酷薄さを底流に、過剰なドラマ性を帯びない人情噺が展開される。「街」と言うより長屋を中心とした界隈の、極めて狭小なエリアでのコミュニティでの妬み・嫉み・憤怒・悲嘆・羨望…それらを吐き出しながら日銭で暮らす人々ではあるが、僕ら現代人との相似性をも映し出す秀作。
2021/02/15
じいじ
久しぶりに読む山本周五郎の現代小説は、千葉浦安を舞台にした『青べか物語』の姉妹作。架空の「街」を舞台に生活するのは、その日その日を愚直に生きる人たち。山周さんが、厳しい眼差しで、温かくユーモアを交えて、15篇の連作で書き上げた力作です。ただ、今作の舞台である「街」の全体の風情は、陰気で昏い雰囲気です。書き手が大好きな山周なので、読み心地は同じでも、私的には明るい仕上がりの『青べか物語』の方が好きです。
2023/08/20
天の川
昭和30年代前半、どぶ川の西側にその「街」はあった。定職を持たず、ギリギリの生活を送っている人々が暮らす「街」。極度の貧しさは明日の夢を持たせない。住民達は互いのことを噂し、こきおろすことはあれど、助け合うことはない。そんな余裕がどこにあるというのだ。冷徹な目で描き出される15編。漠然と山本周五郎=人情物と思っていたのが覆された。本を手に取ったきっかけのクドカンのドラマの人間模様の切なさや優しさよりずっとシビアな世界だった。「僕のワイフ」「親おもい」「プールのある家」がドラマと重なって心に残った。
2024/05/07
kawa
著者の現代物は初めて、長屋小説の代表作と言われるこちらへ。描かれるのは昭和30年前後の貧民街の人間模様、切なくもユーモアあふれる作にやられる。生まれた時期がピッタリ長屋生まれの私(記憶にないのだけれど…)、何か何かのシンパシーさもありなんの昭和を感じながら名作を読了。勢い余ってこちらが原作の黒澤明監督の「どですかでん」まで再見してしまった(伴淳や松村達雄が熱演、が、黒澤さんって女性を描くのが下手だと思う…)充実の天皇誕生日の振替日。
2020/02/24
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