ながい坂 (下巻) (新潮文庫)
ながい坂 (下巻) (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
タイトル通りに長い物語である。しかも、これはあえてそうしているのだが、劇的であることを極力避けている。作中で最も重要なクーデターの場面でさえ、静かに静かに進行してゆく。それが巳年と亥年の政変との決定的な違いであり、主水正造型の最も肝要なところでもあった。末段の滝沢兵部のエピソードは不要なようにも見えるが、主水正が主水正であるためにはそれはやはり必要だったのだろう。エンディングの登城のシーンは、まさにこの長い物語の掉尾を飾るに相応しい。
2021/07/31
びす男
「ここは坂だったのかーー知らなかった、まるで気づかなかった」。一心不乱に坂を上り続けた男の、ながいながい物語。出世するだけで、坂を上ったことにはならない。しかし、坂を懸命に上るからこそ、思いがけない出会いや発見、よろこびがある。懸命に生きる人をたたえ、その細やかな幸せを書ききった力作だった。周囲の人を大切にしながら仕事を全うしようとする人の姿勢には、いつの時代にも変わらぬ美しさが宿る。最後の、「知らなかった」というセリフがいい。知らずに皆、ながい坂を上っている。せめて、一緒に楽しく上ることができたら。
2017/06/22
nakanaka
ただひたすらに人生という坂を上り続ける三浦主水正、カッコ良過ぎます。山本周五郎の遺作、素晴らしい作品でした。その後も気になりますが、彼ならきっと素晴らしい政を執ってくれるでしょう。完璧なように見える彼でも、自分の両親や兄弟との確執は残念でしたね。もう少し優しくすればまた関わり方も変わったろうに。三浦主水正の出世ばかりが目立ちますが、人の盛衰や身分の違いなど、誰にでも起こりうる人生の出来事が沢山散りばめられていて参考になる点も多くありました。個人的には、妻のつるとの和解も良かったなぁ。
2019/11/19
タツ フカガワ
『ながい坂』とは人生をなぞらえた表題で、小三郎改め三浦主水正が生涯をかけて藩政の立て直しに打ち込む姿が感動的。なかでも前の城代家老の嫡男で、酒に溺れて落魄した滝沢兵部を再生させる場面が泣けました。そのきっかけとなる森番の大造は全編を通して物語のアクセントなる人物で、その造形のうまさや、主水が江戸の裏店に潜伏中、なにくれと世話を焼くおとし、お秋姉妹が、周五郎さんの短編「おたふく」のおしず、おたか姉妹にそっくりの癒やし系だったりなど、山本作品のエッセンスが詰まった長編で、再読したい本がまた増えました。
2024/02/06
kawa
(再読)御新政という暴政のなか上巻から5年、さらに江戸での忍従の年月が描かれ、遂に主水正(もんどのしょう)や若手同志による国許・江戸での念願の同時無血革命が成る。生まれながらの身分の低さの屈辱感をばねに立身をはかる主人公に、自らの作家人生を重ね合わせた山周先生の最晩年の自叙伝的本格長編小説。コロナ下のなかの読書三昧年の締めの読書としてふさわしい作品を堪能、満足満点。
2020/12/28
感想・レビューをもっと見る