天地静大 (新潮文庫 や 2-22)
天地静大 (新潮文庫 や 2-22) / 感想・レビュー
みも
幾多の人生訓が織り込まれ、人物造形に卓抜した秀作。静かなる感銘を受けるが、エンタメ志向の読者には些か退屈であろうか。井伊直弼が大老に就き安政の大獄を断行した激震の安政時代(1855~59年)を、端正な筆致で、丹念且つ繊細に描く。尊王攘夷運動が沸き起こり、熱に浮かされた幕臣達はその大きなうねりに呑み込まれる。本著を幕末小説の中でも稀有にし、特徴たらしめているのが、倒幕派と佐幕派のどちらにも与せず生き抜く武士を主軸に据えている点。その超然たる生き方や彼を取り巻く人々の潔さには、哀感のみならず清涼感すら覚える。
2020/01/08
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
この天地静大は、山本さんにしては珍しい幕末ものです。その時代の止めることのできない大きな流れの中で翻弄される、東北の小藩である中邑藩の青年たちの姿を描いています。幕末を生きた特定の英雄にスポットをあてたものではなく、世の中を包む尊王だ佐幕だといった誰にも動かすことのできないものの中で、その大勢に挑戦しそして悩む名もなき青年たちの視点で捉えているところが特徴的で新鮮です。激しい時代を描いた作品ですが、最後は静かに小さな幸せのうちに幕が閉じられ、なんだかホッとさせられました♪
2011/06/27
だまし売りNo
多くの人が幕藩体制がやがて崩壊すること予想している。武士階級の消滅すら予想している。明治維新は武士階級が主導しながら武士階級を消滅させた珍しい展開になったが、行き詰まりは世の中の多くが感じていたのだろう。明治維新の立役者たちがずば抜けて革新的というよりも、人々の意識の反映だろう。
2018/04/29
タイガー@津軽衆
通算42冊目。06月05冊目読了。先月アップできなったものを…山本周五郎の長編です。幕末の小さな藩がどちらの側につけば生き残れるのかという狭間で、それに翻弄される若者たちについての物語。権力が大事か自分の生きる道が大事か…色々学んだような気がします。現在の仕事環境に不安を覚えている人にお勧めです。
2017/07/18
なつお
若者が政治の大きな転換に翻弄された幕末。300年余り続いた体制を現状のまま維持するか、公武合体か、それとも王政復古なのか、様々な思想に揺れる藩と藩士。「国を治めるには政治が正しく行われなければならない…人間生活のためにある政治が、一度権力を持つと逆に人間を圧迫し、人間を搾り、人間を殺しさえする。」「不当な政治の下では学問だって満足に成長しやあしない。」命がけで自らの進む道を守ってきた登場人物たちに胸が熱くなったと同時に、学問を修めることに専念できる現代に生まれた恵みを有り難く思った。
2021/06/24
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