あとのない仮名 (新潮文庫)
あとのない仮名 (新潮文庫) / 感想・レビュー
優希
静かで穏やかな短編集でした。心にほろりとくる話ばかりで、情緒豊かな空気を味わえます。
2022/04/25
井月 奎(いづき けい)
人の世の機微を書き出した短編集です。そうでなくっちゃ、という人情物から無常に苛まれる物語まで幅広く収録されています。小説は人を書く芸術ですので、この物語を疑似体験として胸を温めるのもいいですし、無常の包む世界に立ち向かうことのない人の荒む様子を前車の戒めとすることもできるでしょう。もちろん人とはそういうものだ、と諦観するのも読み方生き方ではあります。この作品集を読んで抱く感想をもう一度自分で吟味することは自分の資質を確認すること、自分の心を見つめることなのだと思います。人とは切なく悲しく、愛らしいのです。
2017/12/18
キムチ
8篇時代ものが入っている。ユーモア、岡モノ、シリアス等楽しめるミックスだが個人的には竹柏記系が好み。日本婦道記を思い出させる。筆者が書かんとする時代ものの真髄は「髷を載せている」だけで普遍的な人間の心情を描いている。とはいえそれは昭和30年代までの世界で今・・現代ではちょっとなぁで。「あとのない仮名」が何とも気持ちを掴めず主人公の虚無感は一体何?という思いだった。もっとも筆者最晩年の作品ともあれば、人間の業を突き詰めていったところでぬらりひょん的になったのかなんてバカな私は感じた。
2014/03/14
きょちょ
良くも悪くも周五郎らしい作品群だが、表題作だけは例外。かなり厭世的な作品で、深い話でいろいろな解釈はできるが、個人的には好みではない。「竹柏記」もかなり非現実的な夫婦と映った。「討九郎馳走」は、太平洋線時代に描かれたもので、この時期の彼の作品は、死地に向かう兵隊さんを鼓舞しているような作品が多い。「桑の木物語」は、最も周五郎らしい作品と言えよう。結末は気分爽快。「妻の中の女」も、ちょいと非現実的に見えるが、ほのぼのとした良い話。 ★★★
2022/11/23
シュラフ
正直 今まで山本周五郎をよいと思ったことはなかったのだが、12冊目にしてはじめて心に響いた。短編集なのであるが、どの主人公も不器用ながらも真っ直ぐな生き方をしている。すべての作品が最後には形式的にはハッピーエンドというわけではないのだが、真実の生きざまを知った感動がそこにある。個人的には「竹柏記」がよかった。不器用ながらも・・・真面目に真面目に・・・相手に対しては誠実を尽くす・・・必ずしも相手が理解するわけではない・・・でもいつかきっと分かってくれるはず・・・そしてとうとうその日がきた・・・感動である。
2015/01/10
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