やぶからし (新潮文庫)
やぶからし (新潮文庫) / 感想・レビュー
じいじ
これは、洋食・中華・日本食とバラエティーに富んだ料理が味わえる短篇集です。私のイチ押しは、じっくりと読み応えのある表題作【やぶからし】。武家へ嫁いだ娘は、果たして仕合わせだったのか、それとも不幸だったのか? を読み手に問うている、中身の濃い物語です。夫や子供、そして嫁の良き理解者の舅姑まで捨てて、勘当された前夫のもとへ走る女の気持が、いまひとつ理解できなかった。凄まじい女の芯の強さを感じました。唯一の現代モノ【ばちあたり】東京に住む三人の姉弟が、母危篤の知らせで駆けつける。明るい話ではないが面白かった。
2022/09/10
nakanaka
12編から成る短編集。特に面白かったのは、学問の家に生まれ、独身でありながら妹の子を養育することになった女性の生き方を描く「菊屋敷」。自分の幸せと預かった子供を育てる使命感の狭間で生きる女性が切なくも健気に描かれていて印象的でした。また、現代小説の「ばちあたり」も心打たれる傑作でした。山本周五郎の短編集でたまにあるラストに現代小説をもってくる構成。たまりません。容態が急変した母の許に向かうため電車に乗り込む兄妹三人と母と同居する末弟との複雑な人間模様を描いた作品。末弟の劣等感と母の愛情に胸打たれました。
2021/04/22
優希
戦前の大衆的作品、コミカルな作品、珠玉の短編と様々な色合いが楽しめました。こんなに面白い時代小説があるのかとうならされます。初期の短編から晩年の現代ものまでが収録されているからでしょう。ニヤリとさせられたり感銘を受けたりと幅広い楽しみ方ができました。古さを感じず、短い作品の中に深い人間や場に対する洞察がありますね。人間を書き出すのが上手いからこそ、様々な味を楽しめるのだと思いました。
2015/01/07
タツ フカガワ
現代物1編に武家物11編を収めた短編集。ようやく掴みかけた幸せが、妹の我が儘でするりと手から落ちていく。姉の微妙な心の裡が克明に描かれる「菊屋敷」。この蔦に絡まれると藪も木も枯れはててしまうやぶからし。そのやぶからしを自称する男に嫁ぎ、幸と不幸をさまよった女の複雑な心理が鮮やかに描かれる表題作。「山だち問答」は「だゝら団兵衛」(『艶書』所収)を元に書かれたもう一つの物語。道を歩いては人を避けない、戦場では矢弾を避けない男の心意気をユーモラスに描く「避けぬ三左」など、三読目の今回も大いに楽しみました。
2024/08/31
キムチ
短編が12編・・車中で読む。標題の絶望感がたまらない。しかし、他作は案外塞翁が馬的で・・人間、生きてみるもんだなと勇気を貰えた。
2015/10/18
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