花も刀も (新潮文庫)
花も刀も (新潮文庫) / 感想・レビュー
nakanaka
8篇から成る短編集。特に面白かったのは表題作の「花も刀も」。主人公の平手幹太郎は実家の事情から剣による出世を望み、酒や女を絶ちただひたすらに実力と結果だけを求める。しかし周囲の僻みやタイミングの悪さなど、様々な要因が絡んだことにより悪い方悪い方へと運命は転がっていく。平手の人柄が真面目なだけに読んでいて辛かったです。平手造酒という剣客が実在したということは知りませんでした。謎の多い人なのでどこまでが真実かわかりませんが、才能がある人が堕ちていくのは切ないですね。
2023/11/17
井月 奎(いづき けい)
時代劇を読む意味の大きい一つに時間を経たもの物語である、ということがあります。なにを当たり前なことを、と思われるでしょうけれども、昔の話、というのはそれだけで価値があるのです。人の世は百年二百年ではそう変わらないのだと分かり、そのことが喜びにおいては、「ああちょんまげをのせた人もこういうことで笑ったのだなあ」と笑みがふくらみますし、悲しみや苦しみにおいては、「このつらさは普遍的な、昔からの感情なのだ」と思うことで孤独に陥ることから逃れられます。喜びを底上げして悲しみを少し減らしてくれるのです。イヤホント。
2018/01/09
のびすけ
全8編の内容は、武家もの、浪人もの、滑稽もの、町人もの、現代ものと多彩。表題作「花も刀も」は、剣で身を立てることを志す平手深喜の物語。深喜は根が真面目で剣の腕も確かだが、自分の思う通りにしようとするあまり周りの人の言葉を聞き入れず、物事が悪い方へと空回りしてしまう。強い信念を持つことも大事だが、周りの言葉に耳を傾ける心のゆとりを持つこともまた大事なことだと教えてくれる。滑稽もの「若殿女難記」のどんでん返しが痛快。
2021/07/24
ひよピパパ
表題作を含め短編8編を収める。「花も刀も」は、剣術によって身を立てようとしながらも、身に降りかかるかかる試練の中を懸命にもがきながら生きていく主人公を描く。時代物ではありながらも、現代社会での「生きにくさ」を映し出しているかのようで味わい深かった。「溜息の部屋」「正体」の2編は「現代物」。時代物以外の作品を知らなかっただけに新鮮だった。
2023/05/31
金吾
山本周五郎さんの武家物にはどう生きるかのメッセージがあると思います。「花も刀も」はかなり悲惨な話ですが、平手造酒を通じてボタンの掛け違いはなにかを考えさせられました。その他は「古い樫木」が良かったです。
2020/09/28
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