火の杯 (新潮文庫 や 2-49)
火の杯 (新潮文庫 や 2-49) / 感想・レビュー
スノードロップ
「『火の杯』は、太平洋戦争末期から敗戦直後にかけて、財閥解体の渦中にほうり込まれた御池財閥直系の一員・康彦の物語である。」(木村久邇典の解説より)。時代物で知られる山本周五郎が現代(当時の)を舞台に筆を執った、エンターテインメント作品。やや強引さはあるが先へ先へと読ませる筋運びと、要所要所にチクリと入れる風刺が秀逸。前後編、二時間もののドラマになりそう、と思いながら読みました。
2021/02/12
東森久利斗
誰? 異世界、異次元、異形、別人の作品としか思えない。山本周五郎の足跡を追い、痕跡を探すも、気配すら感じることができず、疑心暗鬼の思い。時代小説家の現代作品に現れる作家本来の独自の味わい、語り口、描写、キャラクター設定、はいずこへ。全体を覆う非情で冷徹、暗鬱な雰囲気だけは何となく感じることができる。混沌とした世相、時代の移り変わりに飲み込まれ足搔きもがく特権階級への情け容赦のない視点が痛快、反面、生き様、様相が哀れでもある。
2024/11/01
めりこ
財閥解体の影響を受ける宮家の話。単純におもしろかったし、戦時中も何も影響を受けずに豪奢な暮らしを続け、戦後も裏で影響力を持ち続けた華族について、考えたことも無かったし、全然知らなかったから、興味深く読めた。今でこそ日頃は目に付くわけではないけど、たしかにこういう人たちが居たんだろうし、きっと今も一部の人は力を持っているんだろうなぁ。平民の知らない日本の裏側だわ。
2019/08/30
Kotaro Nagai
山本周五郎が書いた唯一の現代物長編小説。現代ものの連作はありますが、長編はこの「火の杯」だけ。周五郎の生涯のテーマといわれる、「人間の真価は何を為そうとしたかではなくて、何を為そうとしたかである」というロバート・ブラウニングの言葉がこの「火の杯」の中で語られている。また、山木周平なる登場人物として周五郎自身が小説に登場する。新聞小説の掲載から復元したため、一部判読できず伏せ字になっているのがやや残念であるが、現代物長編小説としての周五郎を知る上で貴重とも言える。
2006/11/03
桜もち 太郎
時代小説の印象が強かった山本周五郎だったが、この作品は現代小説であり読み始めて驚いた。これも作者の挑戦であったらしい。物語は戦中戦後にかけて日本最大の財閥の庶子である康彦が、財閥解体の渦に呑みこまれ、理不尽な仕打ちに遭う内容だ。戦時中の財閥のあくどさや、解体後の強かさは驚くものがある。モデルは三井財閥系のようだ。最後は物語のキーとなる女性夏子と康彦が、傷から立ち直り光明が差して終わる。今まで読んだ山本作品とは違いスリリングな展開が面白かった。
2014/12/29
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