向い風 (新潮文庫 す 1-8)
向い風 (新潮文庫 す 1-8) / 感想・レビュー
のびすけ
戦死したと思われていた健一が生きて帰ってきたことで引き起こされた歪な家族関係。戦後の混乱の中の不運といえば不運だけど、それだけで片付けられないような、割り切れない気持ちも残る。当時の農村社会、供出米の制度、田舎百姓の気質がリアルに描かれる。最後にゆみが語る「人も運もたのまずに、どこまでも自分の働きで生きて行きたいんだよ」という言葉が力強い。
2023/04/29
松本直哉
天皇もマッカーサーもスターリンもいらない、権力の言いなりにならず自分の力で畑を耕し子どもを産み育てるというゆみのほとんど無政府主義的な宣言はかっこよく見えるけれど、労働と生殖の両方の「生産性」によって結果的に権力に再び丸め込まれてしまうという逆説を著者はどれだけ自覚していただろうか。労働の神聖化は諸刃の剣として働かないものへの蔑視につながらないか。栗原康ではないが働かないでたらふく食べることへの希求こそが権力への真の抵抗なのではないか。
2018/08/28
y_e_d
官報で戦死と伝えられた息子が帰ってくる。親父にやり込められた息子の嫁、生まれる子、やりきれない親父の妻、そしてあっけなく死んでしまう親父。戦争、供出米に翻弄されつつ微妙に歪む家族関係、その皺寄せで辛い立場に立たされながらも芯が崩れないゆみの強さが際立つ。いしとなか婆さんのやりとりが痛烈なのに尾を引かず、ごく普通なのがいい。現実の描き方が痛烈でむき出しな作風と思わせながら、どこか暖かい目も感じさせる話で、独特の面白さがあった。
2018/02/19
葉芹
橋のない川しか読んだことがなかったけれど、素晴らしい作品だった。戦後の農家の混乱をゆみというたくましい主人公とともに、渦巻いていく。ゆみは最初ネジが外れているのか、と思ったが、読み進むなかで、強さとは優しさと日々の暮らしだ、とおしえてくれる。住井すえさんはすごい。天皇もスターリンも必要ないと。そう、私も常々思っている。
2014/04/20
あきこ
実家の本棚で古くなっていた本書を発見。「橋のない川」に続き二作目だ。短い小説だが、戦後の政策や村社会の中で、強くいきていくお百姓さんたち。また戦争という不幸のなかで運命を翻弄されたゆみの生きざまが強く胸に響いた。「働くことが食事をするように当たり前の社会」「どこでも自分で働いて生きていきたい」というゆみの言葉が強く真実を語っていた。人間としての尊厳はここにある、と思わせる。日本の土と生きる人々、その強さと素晴らしさも伝わってきた。
2014/04/16
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