雁の寺・越前竹人形 (新潮文庫)
雁の寺・越前竹人形 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
第45回(1961年上半期)直木賞受賞作。物語の舞台は一貫して北山の衣笠山麓の禅寺、孤峯庵に置かれているが、描かれる風景は川端の『古都』を思わせ、南嶽の雁の絵とともに小説に独特の情調と風情とを与えている。主人公は少年僧の慈念と見るべきだろうが、こちらは三島の『金閣寺』の溝口を彷彿とさせる。水上の作品には『金閣寺』にインスパイアされたと思われる『五番町夕霧楼』もあるが、ここでもイメージの背後には三島の影が見えるようだ。ただ、小説の終盤で種明かしめいた構成を取るのは残念なところ。ラストシーンは悪くないのだか。
2017/05/02
遥かなる想い
第45回(1961年)直木賞。 小僧 慈念の薄暗い情念が 全編に流れた 作品である。 孤峯庵で 繰り広げられる 慈海と里子、そして 慈念の日々は、里子の視点で語られるが、 不穏な予感が心地よく、慈念の視線は 物語に緊迫感を与える… 暗く 屈折した慈念の人生…小さな軀に大きな頭、冷たい眼を持つ 慈念の圧倒的な存在感が 暗い情念とともに 印象的な作品だった。
2018/08/26
はたっぴ
越前竹人形のお芝居を観劇することになり再読。《雁の寺》途中からあらすじを思い出してどんよりした気持ちになる。直木賞らしい描写の美しい作品だが、背中に重石を乗せているような息苦しさを感じながら読了。小坊主の錯綜する嫉妬が生んだ悲劇の物語。《越前竹人形》片輪者のような小男・喜助が作る竹人形は緻密で精巧なものだった。亡父と所縁のあった玉枝を娶り、母親のように恋い慕う喜助。人間の複雑に入り組んだ感情が刻々と描かれており、読むほどに切なくなる。美しい古典文学で鬱屈した愛の世界を堪能。大人向けのおとぎ話のようだった。
2016/10/18
hit4papa
「雁の寺」は、捨て子の少年僧が住職を殺害するに至る過程をねっちりと描いた作品です。ミステリの趣がありますね。幼い頃から容貌をからかわれ、惨めな思いを心に秘めた少年僧。何故、住職を手にかけねばならなかったのか。明確な動機は語られません。母親への激しい思慕が、住職の愛人に重ねられたからでしょうか。ラスト、寺の雁の屛風絵が、鮮烈な印象を残します。「越前人形」は、竹細工の名工と娼婦であった妻の、愛と悲劇の物語です。二人の歪な愛が哀しい。あたかも事実のような力強さがあります。久々に頁をめるくのがもどかしく【直木賞】
2022/02/18
キムチ
待機時間に。令和パステル系読んだ直後のせいか、この本とつい比較してしまってかなり趣を貰えた。半世紀前の作品、水上の代表作の一つに挙げられる。うん十年経て読むとてつもないレトロの絵巻、大正期の匂いを引きずっている感覚。「若き僧侶の煩悶」と「結ばれたのに何処かで解けてしまった悲哀漂う夫婦の話」当時の社会世相、価値基準からするとこういった風情に情趣を貰い、ウルっと来るのは一般だったろうな。今読むと当人の立場、思考に「もっと更なる選択肢があったろうに」なんて思う(のは、読書のルール違反)
2024/09/05
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