櫻守 (新潮文庫)
櫻守 (新潮文庫) / 感想・レビュー
Shinji
水上勉さん初読みです。桜に魅せられる人はたくさんいますが、これ程まで桜の事を考えられるものでしょうか。始まりは竹部との出会いだろうけど弥吉が桜に魅せられたのは幼い頃から山桜を見てきた邂逅からくる必然的なもの。園との出会いも、病める時も、健やかな時も、いつでも桜に包まれていたかのような弥吉。生き方として悔いはなかったでしょうね。お花見スポットの徒歩圏内にに住む私自身が持っていた染井吉野への違和感の正体が少なからず分かった気がします。花見を守るよりも桜そのものを守っていかないと名木は朽ちてしまうんだよな。
2017/03/04
新地学@児童書病発動中
表題作と『凩』の2つの長編を収録。どちらの作品も時代に逆らい、自分の良心に忠実に生きようとする人物を描いており、読んでいて切々と胸に迫るものがあった。『櫻守』では日本古来の桜を育てる庭師弥吉の生きざま、『凩』では宮大工清左衛門の晩年が描かれる。『櫻守』は京都を舞台にしており、作中で使われている柔らかな京言葉の響きが、この物語を一際味わい深いものにしている。桜の描写が本当に美しい。活字を追っていると薄紅色の花弁が脳裏に鮮やかに浮かんだ。(続きます)
2018/01/03
greenish 🌿
丹波の山奥に生まれ、植木屋職人となった弥吉。ひたむきに桜を愛し、守り育てることに情熱を傾けた48年の生涯を綴った『櫻守』。木造建築の伝統を守って誇り高く生きる老宮大工を描いた『凩』。二編の物語 ---『櫻守』雄大な自然を破壊するのも人の手なら、山桜の美しい日本の原風景を守り抜くのもまた人。己の利を省みず桜一筋に身を捧げる弥吉の師・竹部の生き様。それを受け継ぎ桜と共に生き、桜の元へ還っていった弥吉。桜の花びらが舞い散るがごとく、儚さと温もりが感じられる作品でした。今、桜のある風景を愉しめることに感謝です。
2014/04/09
ふう
「櫻守」 桜の季節に合わせて。何十年かぶりの水上勉です。木樵だった祖父の後について山へ行っていた弥吉が、植木屋としての修業を積み、桜に魅せられ桜を守り育ててきた生涯を、戦前から戦後までを通して描かれています。桜の美しさとともに、山や自然を守るとはどういうことか、その道を一筋に歩み続けた祖父や師と慕う竹部の地に足の着いた実直な言葉が、胸を打ちます。桜の下で眠りたい…桜の妖艶さと華やかさ、儚さが散りばめられた美しい作品でした。 「凩」はまだ途中なので、読み終えたらコメント欄へ。
2014/03/31
ソーダポップ
水上勉さんの作品は関西弁の持つ独特の柔らかく、そして会話が醸し出す雰囲気が好きだ。「櫻守」は人と人の巡り会いがが感慨深い。作中の染井吉野は堕落した品種で山桜が本当の日本の桜だと語る場面は少々ショックだった。そして、ダム建設で沈む村から樹齢400年の老桜を移植する話には引き込まれた。そして、木造建築の伝統を守って誇り高く生きる老宮大工を描いた「凩」を併せ納められている。「凩」の主人公の清右衛門も「櫻守」の主人公弥吉と全く同じの姿勢の人物と言ってよく、一切の思考や行動が、土着、感性的なものに根ざしていた。
2023/06/18
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