飢餓海峡(上) (新潮文庫)
飢餓海峡(上) (新潮文庫) / 感想・レビュー
遥かなる想い
層雲丸沈没事故と 殺人事件を絡ませた 骨太の作品である。昭和22年当時の 薄暗い時代の雰囲気が 貧しさとともに 蘇る。青森の酌婦 杉戸八重の薄幸さが 古き良き社会派小説の香りを醸し出す。 青森から 東京、舞鶴へ…下巻の展開が楽しみ。
2018/09/06
のっち♬
娼妓の八重は謎の客から大金をもらい下北から上京。一方、警部補は強殺放火犯として彼を追う。推理小説としても社会派小説としても充実した過渡期の代表作。洞爺丸事故や岩内大火を題材として盛り込み、新円発行でインフレへ爆進する戦後社会の中で、闇商売をやらなければ生きてゆけなかった一般市民の凄惨な生活苦が仔細かつリアルに描かれているのが大きな魅力。制度の欠陥で再犯しか道がない刑余者、寒村に生まれて大した教育も受けずに社会に送り出される子供たち。冒頭一文に戦後の混乱と因襲の犠牲となった彼らに渦巻く怒りや悲しみが重なる。
2022/08/16
あつひめ
つい最近車を走らせた海沿いの地名が出て、昔の断崖絶壁のようなところにできていた道路跡を思い出しながら読んだ。戦後間もない頃の不運な事故と、欲望に駆られて行われた犯罪。全く関わりのない女の人生の末路。荒れ狂う波にみんなの人生が飲まれたような…。雨のあとの濁った海と重ねあわせながら上巻を読み終えた。長い年月、じっとしていた者が動き出す気配。下巻も楽しみです。
2014/08/19
goro@80.7
洞爺丸遭難事故と同じく起こった火災をベースに水上勉が組み上げたミステリー。ウン十年振りに再読してます。情けを掛けた娼妓の八重なのに・・・。終戦後とはいえし逞しく生きた八重なのに哀れ。下巻は追いつめてやるぜ!
2022/06/19
みも
時は昭和22~24年、戦後間もない動乱期。進駐軍将兵が闊歩し、復員兵がうろつく猥雑で雑駁な街角。価値観が転覆し、家財を悉く消失した人々が、困窮に喘ぎながら必死に生きていた時代。松本清張を彷彿させる地道な捜査に明け暮れる刑事と、身体を売る事でしか生きる術無き青森下北寒村の女性に焦点を当てる。ミステリーとしては粗さも目立ち未成熟だが、民俗学的に貴重な資料として興味深い。それにしても裏表紙の粗筋はあからさまなネタバレ…しかも上巻の読みどころの言及もピント外れ。一気に10年近くの歳月が流れ急展開を見せる。下巻へ…
2018/12/27
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