娼婦の部屋・不意の出来事 (新潮文庫)
娼婦の部屋・不意の出来事 (新潮文庫) / 感想・レビュー
長谷川透
男女の交わりは現実世界に身を置きながらも、快楽や恍惚の感覚と共に現実と断絶した仮想空間に居るとも言える。行為の果てに本来の現実世界のことを忘れてしまえば、そこは最早完全なる幻想の世界と言っていいのかもしれない。では、金銭を介して為される交わりはどうだろう。行為自体は幻想の世界に属しているかもしれないが、現金という深く現実に根付いたものを介するせいで、幻想の世界に現実が忍び込んでくる。吉行淳之介の書く小説の半現実半幻想的な世界は、性的行為の幻想性と娼婦が持つ現実性が綯い交ぜになって生まれてくるように思う。
2013/11/15
佐島楓
退廃的な匂いが太宰と重なる。影響を受けていらっしゃったのだろうか。「青い花」の恐ろしさに驚いた。ホラーだし怪談だし幻想小説のような、どこまでが現実なのかわからない感触に惹かれる。チャゲアスに「僕の時間を少しずらしてあなたに会えてたら」みたいな歌があるんですが、吉行さんにはそんな思いを持ちます。
2012/04/04
ちぇけら
小説からこんなにも匂いを感じるのは、古井由吉とこの吉行淳之介で、読後は鼻の奥に粘ついた何かがこびりついて取れない。人々は何かに執着していて、それは体であったり存在であったり記憶であったりする。そしてそのいずれにも、読んでいて離れない匂いが存在する。その匂いがいったいなんなのだろうかと、ぼくはことばを追いかけて、追いかけて、そして路頭に迷ってしまう。孤独な空間にぽつんと一人佇んで、ここが吉行淳之介の世界なのかと満足するんだ。かすかな匂いだけが、ぼくを包んでいた。
2018/08/13
桜もち 太郎
生活の疲れから娼婦の元に通う男、その場所でしか生きていくことができない女。そして娼婦に価値を見いだせなくなっていく男の姿をサラリと書いてしまう吉行淳之介。どれだけそんな世界に足を踏み入れたのだろうか。女性が読んだらもしかしたら嫌悪感が生じるのかなと思うが、生と性は切り離せるはずものなく、それを錘のようにずっしりと読み手に残す所がこの作家の凄いところだと思う。
2014/11/08
みや
昭和30年代に書かれた作品を中心とする初期の短篇13作。これでもかとばかりに繰り出される男女の物語。胸焼けを起こさないのは、心の交流が不在乃至希薄であるから。ブレーキをかけながらアクセルを踏むような、独特な男の世界観を堪能できる。時折、顕になる女性や子どもへの精神的な眼差しに著者の内攻をみる。このような、ある意味ナンセンスな小説に触れられることに最高の贅沢を感じる。
2020/03/13
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