目玉 (新潮文庫 よ 4-16)
目玉 (新潮文庫 よ 4-16) / 感想・レビュー
佐島楓
七編の短編集。その多くに病気のモチーフが扱われ、老境にさしかかった著者の苦しみが見て取れる。つぶさに読んでいくと、小説というよりエッセイに近い作品集なのだろうと推測できる。非常に明晰で記憶力もすごい。まさに作家の頭脳だ。
2014/12/15
三柴ゆよし
病気をテーマにした小説とかエッセイというと暗澹としたものをイメージしがちだが、自身の身体に巣食う病を見つめる吉行淳之介のまなざしは、矛盾しているようだが、なにかこう新しいおもちゃを手に入れた子どものように生き生きとしていて、そのスタイルは、都心の病院の一室で、術後に体験した幻覚の話をあくまで洒脱に物語る渋澤龍彦にもどこか似ている。表題作、「百閒の喘息」、「いのししの肉」あたりが特にユーモラスで、おもしろく読んだ。心身ともに疲れる小説を立て続けに読んだ後には、ちょうどいい食後酒のような短篇集だった。
2012/10/01
jjm
祖母の本棚に積んであった本。吉行淳之介って読んだことなかったと思い手に取る。そうかあぐりの息子か(失礼!)。日記でも読んでいるかのような不思議な文体。
2019/05/03
氷柱
486作目。4月10日から。病気に関する短編集。悲壮感溢れるものやお涙頂戴ものではなく、どちらかと言うと客観的な目線で病気のあれこれが描かれる。それも医者としての目線ではなく一素人としての目線によるものだからお堅い内容ではない。元々好奇心旺盛な作家というイメージがあったが、今回初めて読んでみてその印象が確固たるものとなった。物書きはこれくらいの目を持つべきである。
2019/04/13
donky
エッセイとも私小説とも区分けのつかない描き方ですが、それが曖昧模糊とした話題、病気との付き合いにおいて合っていると思いました。身体のことは記憶や理性といった頭の中にあるというより、どこか肉体内部の自分でも触れられないところにある。化石化するほどに固くはないが、ぶよぶよとした感触。小説とするなら、どこかにまとまりを付けたり、山場を設定したりの意図的な配慮がいりますが、まるで作者が夢世界を彷徨うような、こんな書き方の方がいいですね。百閒先生のスタイル、それでいながら的確で明快な文章。
2017/10/17
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