朱鷺の墓 下 (新潮文庫 い 15-15)
朱鷺の墓 下 (新潮文庫 い 15-15) / 感想・レビュー
松本直哉
同じように反体制の運動で投獄された経験を経ても、依然として革命に夢を託すイワーノフと、ニヒリズムの諦観に至る機一郎の対照が際立つ。その二人が染乃という一人の女性を愛してしまうのに、憎みあうどころか、互いを認め尊敬し、仲良く将棋盤に向いあう。そして染乃にとっても、二人とも同じくらい大切な存在。このポリアモリー的な温かい三角関係が、日露戦争からロシア革命、シベリア出兵に至る時代の荒波にさらされてゆく。自らの故郷であるはずの日本に対して、愛憎相半ばする、むしろ憎しみの勝った感情を抱かざるを得ない染乃の悲しみ
2023/11/17
ピンガペンギン
五木寛之小説全集を借りて読んだ。作者の戦争終了後の悲惨な体験がもっと歳を重ねてからのエッセイに出てくる。そこからできた作者の人生観、人間とはどういう存在か、また国家は最終的に個人を守ってくれるのか、という問題意識が登場人物に反映されている。本に添付されていた「月報」で作家自身がそういう意味のことを書いていた。国籍も階級も異なる夫婦愛というロマンチックなところがなければ読みにくいテーマを、いつもの通りに読みやすくリズムのある文体で楽しんだ。風の音、雨の音などの描写が印象的。
2022/07/26
熊男
こういう結末か。正直、どっちかは死んでしまうんじゃないかという嫌な予感はしてた。でもこんなのってないよ。これが日本だなんて嫌だ。こんな国だったなんて。今は本当に幸せになったんだなぁ…。でも、花井の要求を飲んだ所で幸せにはなれなかったと思う。スパイ的な事だもん。生まれた時代が悪かったんだね…。僕は二人に凄く感情移入してた。だからこれは本当に悲しい。けど、この作品に出会えて本当に良かった。もう二度とこんな時代を作ってはいけない。
2009/09/21
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