百物語 (新潮文庫)
百物語 (新潮文庫) / 感想・レビュー
buchipanda3
「世の中からすりゃ、人間なんざヤヤさまのようだわナ」。江戸怪談もの漫画。百ではなく九十九篇の気味の悪い噺。うっすらと異形の陰を感じさせる杉浦さんの絵にゾクッとしたものが染み出してくる。そこには人の世とは違う世界が見え隠れしているのに、その中に意外にも人の世のおかしみを見つけてハッとなることも。解説にあった"なつかしこわい"という言葉に合点。子供の頃は不思議な出来事を自分の意に反して怖い方へ怖い方へと話を膨らませた覚えが。それにしても江戸の頃の人々は暮らしの中で世の物の怪との付き合い方が上手かったのだなと。
2021/08/18
優希
面白かったです。古から百物語と言い侍る不思議な百話の集う場に、必ず妖現ると。江戸時代に存在した魑魅魍魎と生死の狭間を彷徨う人たちの紡ぎ出す怪異譚。怪しと人間の姿が愛おしく、何処か懐かしさを感じました。怖さが漂うのにどこかあたたかさのある雰囲気が美しいです。江戸の粋と妖の世界がとても魅力的でした。静かに怪異と寄り添う江戸の人々が粋ですね。
2016/04/28
nakanaka
シュールさと気味の悪さを併せ持った作品でした。それぞれの物語をみるに、描き方によってはもっと恐ろしい作品にもなりそうですがあえてそのように描かないところに丁度良さと杉浦日向子さんのセンスを感じました。一話一話描き方が異なり飽きることなく読み進められました。シンプルな絵とシンプルな文章が心地良く感じました。個人的には「産女の話」「人茸の話」が印象的でした。総じて面白かったです。杉浦さんはもう亡くなられたのですね。残念です。
2016/06/27
Bugsy Malone
お気に入りさんの感想で知りました。ご隠居が訪れ人に乞い聞かさった九十九の物語。百物語といっても背筋か凍るほどの怖い噺は無いのです。不思議でありながら温かく、怖いようでありながら懐かしく。人と怪異が仲睦まじく過ごし、なんだかお互い信頼さえもしていた様な江戸時代。そんな趣きを様々な筆致の絵で紡いだ、この上なく極上のあやかし漫画集。冒頭、百話目は聞かず、代わりに無事を祈った線香を立てると語ったご隠居、その最後の一本を立てる時のご隠居のお顔、その表情の素晴らしさといったら。
2019/05/23
夜間飛行
妖怪は闇に住むと思われているが、本当に彼らが好むのは「かはたれ時」と「たそがれ時」、つまり人の顔が見分けにくくなる頃らしい。だから百物語も、淡く儚い一話一話からできている。そしてそれを百集めたとき大きな意味が現れ、一つ一つのお話の支える意味が決して無意味でないと証される。このからくりを、昔の人は本当の化物が現れるといったのだと思う。大きな意味とは、聞く人全員に関わる大切な何かであろう。そう考えるなら百物語は怪異のお祭のようなものかも知れない。お祭りだからこそ、怖さの中に美しさを感じさせるのではなかろうか。
2013/08/23
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