赤い月〈下〉 (新潮文庫)
赤い月〈下〉 (新潮文庫) / 感想・レビュー
AICHAN
図書館本。母親は我が子を守るため体を張るという。本能だろう。倫理を植え付けられ理性が働けばその本能も鈍るだろうが、あくまで本能のままに行動する母親もいる。波子はそんな人だ。娘時代からの奔放さがその本能をむき出しにさせたとも言えそうだ。軍人との不倫はそんな奔放すぎる波子だからの過ちだったが、自分たちの命を守るためなら、なりふりかまわず何でもした。「母であるためには生きなければならない。生きるためには愛しあう人が必要なのよ」。わかるような気がするが…。満州の荘厳な落日、私も見てみたい。
2018/09/10
kawa
ウィキペディアによると本作は「戦前・戦中の旧満州を舞台に、一人の女性の生き方を描いた物語で、なかにしの実際の体験をもとにした自伝的小説」とある。しかし、著者の体験はあるにせよ、かなりフィクションが織り込まれている印象。だからと言って、そのことに不満があるわけではなく、却って悲惨な現実を踏まえつつも、小説としての読み応えが増し、流石、一世を風靡した売れっ子作詞家の小説だと、舌を巻かざるを得ない仕上りになっている。もし、著者の小説作法なるものがあれば是非知りたいところだ。
2022/05/30
James Hayashi
波子は十数年の満州滞在で大成功を収めたように見えたが、敗戦により財産を失い、家族を失い、夢を失った。一人の戦中に生きる女性を描いているが、同時期に生き抜いた全ての日本人を代表している。棄民として扱われた人々だが、貧困や病気だけでなく現地の人々から命を狙われ、アヘンの虜になってしまった人もいる人間ドラマ。政府の無策に憤りを感じる著者の自伝的小説。
2016/02/06
Cinejazz
頼るべきものを一切失い、生きるか死ぬかの極限状態に置かれた人間の、壮絶なる修羅場が容赦なく突きつけられる、満州引き上げの著者自らの体験と実母をモデルに語られた地獄絵図の下巻。〝母親にとっては、このよに善いも悪いも、卑怯も非人情もない。子を守るためなら鬼にも畜生にも、人殺しにも泥棒にもなる…〟母として、妻として、また恋人として、懸命に生きようとした主人公(森田波子)の、穢れと混乱のなかでも失われない真摯な生き方と愛情表現をとおして、人間の「いのち」の在り方を問われる慟哭の長編小説。
2024/11/01
財布にジャック
二児の母の波子の強さと自由奔放さが、印象的な下巻でした。この時代の女性の苦労が、ひしひしと伝わってくる力作だと感じました。
2023/04/04
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