朝のガスパール (新潮文庫 つ 4-34)
朝のガスパール (新潮文庫 つ 4-34) / 感想・レビュー
MICK KICHI
高度に発達したWeb社会の現在から見ても、古さを感じず、あまつさえリアリティまで感じてしまう筒井ワールドには改めて驚愕する。スピルバーグが映画化した、レディ・プレイヤー・ワンと較べても遜色ないくらいの電脳世界と現実世界まで作り込んだ螺旋的虚構構造。そしてこれが、新聞を媒体としたSNSを先取りしたコミュニティーで作成される共時性を持った、驚異的な小説であった事。 リアルタイムで体験出来ずに、本来の100分の一もその喜びを享受できなかった事がもどかしくもあるが、当時その事実にさえ、気づいていなかったのである。
2018/10/25
アマニョッキ
ふうー。壮大なる筒井先生のボケを新聞連載半年間という枠で見せられた気分(誉めています)。一般読者からの投書でストーリーを展開していくという手法は斬新だが、これだけ内容がガチャガチャしている(誉めています)と、さぞ批判の投書も多かっただろう。そしてその批判が筒井先生はきっと大好物。さらに意識高い系講読者を怒らせる展開へ持っていっているのが見てとれるから、思わずにやにや。作者が一番楽しんで書いている小説だもん、それだけでもう言うことないでしょう。天才すぎるもーん、筒井先生。
2017/12/26
さっとる◎
本を読む背筋が思わず伸びる。新聞連載という特殊性で何ができるか。古くて新しい試みを模索するその姿勢を、私たち読者は積極的に楽しむことができるのか。本を読むという行為が能動的であるからといって、ただ物語の世界の外からそれを眺めて面白いだつまらないだと言い立てる。わけのわからなさを作者のせいにする。「何か新しいものを作る時、それを作るのは実に複雑だから、作品はどうしても醜くなってしまうのだ」。筒井康隆には読むことを楽しむ力を常に試されている気がする。いや、これ普通に面白かったのだけど(笑)。虚実の壁の超越!
2017/09/02
ねりわさび
日本SF大賞を受賞した小説であり、実存と虚構をSFというカテゴリーで再構築した異色作。見所は当時の新聞連載時、筒井氏とネット民たちとの血で血を洗うような明け透けな論駁を相手の実名入りで描かれているところ。筒井氏の独白がギャグなのか狂気なのか明確に読者に理解させないところもポイントが高いです。 過去のインタビューで筒井氏は『あのネットの悪党どもは、作品を紡ぎあげる助けになってくれたことには感謝しています。しかし今も許してはいません。』とこの小説を統括していたことも思い出されました。総合的に面白かったです。
2019/05/24
ぺぱごじら
読了棚から発掘した一冊(92年新聞連載で読了)。今の『ネトゲ』を大きく先取りした先見性はSF作家:筒井康隆の真髄。当時社会人になり緊張感が馴れに変わる頃『あぁやだやだ』と日常にうんざりしていた当時の自分の心を、このメタフィクション新聞小説は凄まじい現実逃避で満たしてくれた(笑)。嫌な取引先の前でうんざりするような会話をしている時に『まぼろしの遊撃隊』が来ないかなぁとか(笑)。新聞小説独特の短いパラグラフと、筒井より筒井らしい筒井党が提起する新展開。『これこそが』とは言わないが『これも一つの』筒井完成形。
2012/06/03
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