聖痕 (新潮文庫)
聖痕 (新潮文庫) / 感想・レビュー
優希
数奇な「聖人伝」とでも言うべきでしょうね。内容はさておき、その文章に駆使された雅語や隠語から、筒井サンは相当楽しんで書いてらしたのではないかと思わされます。性器を切断された少年の成長譚でありながら、背徳に染まった物語としても読める作品。会話が一切ないのに小説として成り立つのがある意味凄いところです。
2017/11/05
つねじろう
誰をも魅了してしまう貴夫は5歳で局部を切り取られてしまう。ゔ〜それは痛そう可哀想。色々苦労は有るものの長ずるにあたり、全く世間とは違う世界が見えてくる。それは異性に対する欲望だけでなく、その欲望を根源とする文学、美術、音楽に不感症となりそれ自体が嘘くさかったり、全く価値のない物に思えてしまう。唯一残された感覚は食感だなんて。そうこれは筒井康隆らしい自身がそういう歳になってるからの居直りパロディ的要素も充分匂う。でも文章は枕詞乱発の三島由紀夫的美文調。時代の世相も折り込みつつ色々楽しませてくれる本でした。
2015/12/13
ねりわさび
局部を悪人に切断された美青年が芸術も解する料理人となり怨みすら赦す精神的階梯へ到達する小説。テレビ連続ドラマのような詰め込みすぎな展開が気にかかるにせよ、筒井氏の息子をモデルにした実験的作品という近作に通底するスタンスは変わらない。興味深く読み終わりました。
2020/05/21
harass
この作家の本を新刊で買うのは数年ぶり。独特のドライブ感のある文体は健在で久しぶりに酔いしれる。読書の快楽というか、快楽の読書というか一気に読む。どういう風に話しを締めるのかと考えていたが、少し拍子抜け。いろいろ読後に考えてみるとなるほどと思うのだが…… 初めてこの作家の作品を読む人には強くおすすめするほどではない。まあ読んで損はないのだが。
2016/01/30
№9
何やら淫靡な物語のようだがそうではない。葉月貴夫はリピドーに支配されることのない肉体を持ち得たがゆえ、触れたくてもふっとすり抜けてしまうような透徹した人格を獲得する。その半生の語りには古文調や古語や枕詞が散りばめられ、思いのほか淡白だ。粗暴な弟や性愛の館と化した美食レストランの面々、執拗につきまとう同性愛者などの彼らの内面も深くは掘り下げられない。なぜならこの文体が貴夫自身の紡ぐ言葉であるからだ。「それ」以外さしたる物語でもないのに読ませるのは、そんな貴夫の到達した境地を追体験させられるからかもしれない。
2016/08/03
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