悲素(下) (新潮文庫)
悲素(下) (新潮文庫) / 感想・レビュー
yoshida
和歌山毒物カレー事件の裁判は終了している。状況証拠により死刑が求刑され確定。だが彼女は犯行動機を語らない。積み重ねられた状況証拠から彼女以外に犯人はないと結論がなされている。本作で採用している動機にも納得性がある。露見しにくい砒素という「毒」。そして生命保険の盲点。医師への袖の下。この3つを使い、人を巨額の金に変える錬金術を繰返した夫婦、特に妻は悪魔と言える。警察と検察の地道な捜査。沢井教授達の医学的見地からの洞察。専門用語も多く読みやすい作品ではないが引き込まれていく。欠如した罪の意識に唖然とした。
2018/07/14
ehirano1
殆ど回顧録の様相が濃くなった下巻。参考文献には“井上尚英”の名が連発していることから、当該人物の回顧録なのではないかと思いました。退官までやれることをやり切った姿には感動しました。また、光山刑事からの手紙には当方も目頭が熱くなりました。沢井教授(≒井上尚英教授)と光山刑事、本当に素晴らしかったです。そして、お疲れさまでした。
2020/06/14
ぶち
下巻は事件の公判に費やされています。不特定の近隣住民を狙ったカレー事件の動機が一番知りたかったことなのです。現実の事件公判と同じように被告人は黙秘を続け、状況証拠だけで死刑となっています。なぜ、あのような凄惨な事件を引き起こしたのか? 金銭目当てではなく、なぜ無差別な殺人ができたのか? ここが解明されない限り、被害者も、事件を追った警察関係者も、協力した医療従事者も、そして家族のだれもが誰もが報われない気がしてきます。上巻を読んでも宙ぶらりんのままにされてしまったような気持になっています。
2022/04/14
ehirano1
『医学研究の最終的な存在意義は、社会貢献だろう。社会還元がなければ、研究は自己満足でしかない。これでよかったし、この先もこれでよいのだ』。同感ですが、この医学研究に基礎医学研究が含まれるのであれば、必ずしもそうとはいきません。基礎研究を怠っての医学研究の発展は有り得ませんし、ましてや社会貢献は望めません。現代は、短絡的思考が闊歩しており、医学研究の社会貢献のスキームと内在性理論を全く理解していない、理解しようとしていない風潮であることを日本人ノーベル賞受賞者が指摘しているのですが・・・。
2021/07/20
naoっぴ
誰にも知られず人の生死を握っているという万能感と高揚感。カレー事件の主婦の動機は私には理解できるものではないが、その魔力に魅入られてしまったら善悪の壁を越えてしまうものなのか。医学の剣を最大限にふるい、判決を勝ち取った検察、警察、そして医師たちのチームプレーに感無量。警部補からの手紙で被害に遭った人々の心の苦しみを知り、事件の重大さを改めて思い涙した。長い物語の中で九大教授が初めて発した「私」という言葉に、長い事件の中で彼は自分のすべてを捜査に捧げていたのだと気づいた。感慨深い余韻を残す作品。
2018/03/11
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