とにかくうちに帰ります (新潮文庫)
とにかくうちに帰ります (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
津村記久子さんは、芥川賞をはじめいくつかの文学賞を受賞した歴然たるプロの作家なのだが、前半の「職場の作法」を読んでいると、どこか妙に素人っぽい感じがする。もちろん、ヘタだと言っているのではない。アマチュアリズムの持つ良さのようなものを保ち続けているということなのだろう。後半の表題作は、もう少し仮構されている。非日常というほどではないが、大雨の状況が日頃は出会わないはずの人々に接点を作る。普通に日常を生きていることの、どこかせつない感覚をうまく掬い取って見せるのだ。結局、これが彼女のプロのワザなのだろうか。
2016/04/12
ミカママ
津村さんの二作目(当社比)。タイトルの妙味。西加奈子さんのあとがきが筆者の作風をひとことで表現している。いわく「取るに足らないとされていること」を描かせたらニッポンイチ(とはおっしゃってないが)。そしてそのユーモアあふれる文章の妙味!特に前半は、日本でのOL(これも死語?)時代を思い出し、なかなかに楽しい読書体験であった。
2022/10/08
馨
私は普段読書をするのは休日がメインで、本作品はあまりにも仕事中のちょっとした細かいシチュエーションがあるあるな話が多く、オフの日にまで仕事気分になりしんどかったです。そのぐらいサラリーマン(OL)生活をよく調べているのでしょう。表題作は、読んでいるこちらまで雨に打たれ寒い気になります。通勤は近いにこしたことはないです。都会の方々が毎日何時間もかけて通勤することは本当にストレス溜まるだろうし凄いなあと思います。
2017/01/22
さてさて
『会社から単に帰るというだけのことに、どうしてこうまでてこずっているのだ』。大きくは三つ細かくは六つの短編から構成されたこの作品では、津村さんのユーモアに溢れる独特な視点の物語が描かれていました。”働き・悩み・歩き続ける”私たち人間の生き方を改めて見るこの作品。人の感情の細やかな描写に読者にまでずぶ濡れ感が伝わってくるこの作品。津村さんだからこそ滲み出る味を感じるとても良くできた物語の中にさりげない日常を淡々と描く、それでいてそんな日常の積み重ねこそが私たちの人生であることを感じさせてもくれる作品でした。
2023/07/08
yoshida
津村記久子さんは初読みの作家さんです。「職場の作法」と「とにかくうちに帰ります」の2編で構成。「職場の作法」では職場における日常を描き、共感が生まれます。仕事を人に頼むのに礼儀をわきまえない人、忙しいアピールが強い人。こんな人いるよねと同調。「とにかくうちに帰ります」では豪雨という非日常の中、数キロを歩いて駅に向かう人々を描きます。日常では当たり前に帰れる家がこんなに遠いとは。少しの事情で安全に帰れた筈が、歩く事になり小さなドラマが生まれる。淡々と読了。物語に、もう少し起伏があっても良いかなと感じた作品。
2016/12/23
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