クローゼット (新潮文庫)
クローゼット (新潮文庫) / 感想・レビュー
さてさて
『わたしの働くこの白い建物の中には、大量の服が眠っている。その数、一万点以上。十七世紀から現代までの、主に西洋の服たち』。そんな『服たち』を収蔵している『青柳服飾美術館』を舞台に展開するこの作品。そこには、『服』の世界が秘める奥深い物語が描かれていました。これでもかと記される『服』の歴史やマメ知識に、『服』の世界に魅せられるこの作品。『服』の『補修士』という職業の”お仕事小説”でもあるこの作品。千早茜さんらしい雰囲気感どっぷり漂う物語の中に、「クローゼット」に眠る『服たち』のことを思う、そんな作品でした。
2024/05/04
アッシュ姉
十八世紀の貴重な衣装からハイブランドにファストファッションまで、国や時代を越えてさまざまな服が大切に保存されている服飾美術館。洋服修復士や学芸員など知らない世界がとても興味深かった。はるか昔の服を完璧に直してしまうと当時の雰囲気が無くなってしまう。着ていた人の思いが消えないよう残しつつ絶妙な加減で修復していく。心の傷も無理に治そうとしなくていいんだよとそっと寄り添ってくれるような作品。千早さんの服への愛と知識の深さに感嘆。
2022/01/19
本詠み人
子どものころ潜り込んで遊んでいたクローゼット。狭いはずのそこは空想の力で果てしない広がりのある魅惑の世界だったのに…千早茜さんの作品は4作目だが、どの作品にも傷を負い生きづらさを抱えた主人公が出てくる。今作は18世紀〜の洋服を収蔵する服飾美術館が舞台。そこで働く補修士の纏子と、洋服の好きなデパート店員・芳(かおる)の物語。誰もが多かれ少なかれ心に何かを抱えて生きている。強そうな晶もアフロ高木も私も。完璧な解決ではないけれど、こんな風に自分の弱さと共に生きていけば良いんだ…と思えた。やはり千早作品は特別だ✨
2022/01/03
masa
【クローゼット】には"洋服を仕舞う場所"だけでなく"セクシュアリティを公にしていない人や状態の暗喩"の意味がある。それはつまり本当の自分に似合うものだけを大切に閉じ込めた空間。生きていく中で誰かの残酷な出来心により自分らしさをどうしようもなく損なわれてしまうことがある。失われてしまうことがある。でも思い出して。あなたは着せ替えのマリオネットじゃない。その糸を切ってもいいんだよ。扉を開く鍵は物語という名のクローゼットで見つかるだろう。あなたの選んだものを身に着けて、ひとつひとつ尊厳を取り戻して、笑ってくれ。
2021/01/16
kyokyokyo3201
服飾品を時代と人の歴史として残す美術館に心奪われた。登場人物たちが抱えるトラウマはそれぞれであるが、それを含んで今があることを少しづつ納得していく様が心地よい。モデルとなったKICのInstagramを見る。素晴らしく繊細で美しい。
2021/01/17
感想・レビューをもっと見る