いつも彼らはどこかに (新潮文庫)
いつも彼らはどこかに (新潮文庫) / 感想・レビュー
mae.dat
洋子さんワールドの静寂な短篇8話 with 生物。第1話は、ディープインパクト號の凱旋門賞遠征が取り上げられているの。主人公の生活域は明示はされていないものの、どう考えても東京モノレール羽田空港線沿線なんですよね。場所や出来事の特定は珍しい。その遠征に当たって『帯同馬』の方に視線が向くのね。ピカレスクコートは気性が穏やかだから選ばれたなんて報道されていたのも、この物語に相応しい。そして、ちゃんと帰って来たよって教えてあげたい。でも引退後は乗馬馬になる予定だったのが、消息不明みたいだよ(ó﹏ò。)。
2024/06/09
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
限られた世界でひそやかに生きる人たちの静かな生活を、ひと匙丁寧に掬いとったような8つの物語。寂しげで淡々としていて、控えめ。優しさで繋がったり、不穏な世界が唐突に終わっていたり。 いつもどこかにいる彼らは、誰の為でも、それこそ自分の為ですらなく、ただただそこにいる。そのひたむきな存在にぞっとさせられたり心をあたためられたりしながら生きていく。 静謐で穏やかで、あたたかく冷たい森で亡くなった人を思う「ビーバーの小枝」、美術館でのひそやかな交流「目隠しされた小鷺」、旅代行業の女性の「竜の子幼稚園」が特に好き。
2018/10/26
KAZOO
小川洋子さんの短編集です。小川さんのは結構短篇が好きで読んでいますが、この8つの話は不思議なイメージを与えてくれる気がしました。最初の話などは、ディープインパクトが出てきたりしてひょっとしたら小川さんは競馬が結構好きなのか、と思ったりしました。すべて読み終わるとどこかもう一つの世界が存在するかのような印象を与えてくれます。物語の世界です。
2016/10/01
ちょろこ
【うさぎまつり】の一冊。うさぎの表紙ということで。人と動物を描いた八篇。この作品もぴったりすんなり入り込めて好き。現実と架空の境界線をずっとゆらゆらどっちつかずのまま揺蕩う感じ。この感覚がたまらなく心地よい。どこか遠いようでどこか近い場所。そこで密やかに、でも圧倒的な存在感を放ちたった一つを慈しむ人たち。彼らが時折自分を動物に投影させているようで、その情景がたまらなく心をせつなくキュッと柔く掴んでくる。どれもいつまでも波紋が拡がり続けるかのような余韻。沼のほとりに残されたような寂寥感さえも含めて好き。
2023/03/07
關 貞浩
いつもどこかにいる生き物たち。言葉を持たないからこそ、心静かに彼らの息づかいに耳を傾けなければ、その生命のぬくもりを感じ取ることはできない。やがてすべての生命は終わりを迎える。すべてのものが死へと向かう、一見虚ろなこの宇宙。元の形を失った、かつて何かであったものたちによって私たちは取り巻かれ、私たち自身が構成されている。輪廻を超えた無限の律動。追憶の情景。日常という永遠に終わることのない追悼式。いまはもういない忘れられたものたちの愛でこの世界が満たされているということに、私たちはちゃんと気づけるだろうか。
2018/02/27
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