眩 (くらら) (新潮文庫)
眩 (くらら) (新潮文庫) / 感想・レビュー
エドワード
葛飾北斎の娘の女絵師・お栄、雅号は應為。北斎が「オーイ!」と呼ぶからそのまま号にしたと何かの本で読んだ気がするが、本書ではその説は採らない。今や世界のホクサイも下町の長屋住い、貧乏暇無し、描いて旅して引越して、筆使いの迫力、江戸の暮らし、絵師、版元、吉原、様々な人々が生き生きと動き出す面白さ。渓斎英泉こと善次郎への密かな想い、性根の腐った甥の時太郎の不始末に追われるうちに、大切な人々に先立たれていくお栄だが、いつでも前を向いて生きていくお栄の清々しさ。最後に描く「吉原格子先図」が見事に個性を発揮している。
2018/10/28
niisun
応為の作品は北斎展などで何度か観ているので、それぞれの作品が生まれる瞬間の感動を小説とはいえ作者目線で味わえるのは嬉しいですね♪ 北斎や応為の作品が自在に動き出すのと同じ様に、まかてさんの作品も、全ての登場人物が躍動していて、兄弟子の善次郎やその妹たち、放蕩者の甥の時太郎などは、物語からフェードアウトしている間でさえ、暮らし振りが想起されます。しかし、葛飾父娘の仕事に対する姿勢がいい!“三流の玄人でも一流の素人に勝る。恥をしのぶからだ。己が満足できねぇもんでも、歯ぁ喰いしばって世間の目に晒す”至言ですね!
2018/11/05
sin
視点は北斎の娘…その画業の凄さに分かったような穿った見方で北斎その人を捉えていたが、ここに人間北斎を教えられた気がする。生きる上でその生業だけでは完結しない人との係わり、絵師と清濁併せ持った社会…自身も絵師であるお栄はその仲立ちとして絵師の心持ちを云わば体現し、そのうえで自身の違和感をも訴えかけてくる。現代で云うと影武者である。姑息ではあるが時太郎の指摘は利権利権の現代感覚に通じる。しかし、そんな野暮はうっちゃって想うよう好き勝手に生きることが許されない時代に好きな世過ぎで生きぬいた絵師(父娘)の物語だ。
2018/12/11
じいじ
8作目の朝井まかての小説だが、骨太で読み応えがあった。余談だが、いま日本の政治分野は二世、三世の実力もないのに〈幅を利かせて〉地位を得ている。この物語の主人公は、あの浮世絵の巨匠・葛飾北斎の娘お栄。親の七光りだけで、芸術の世を渡っていくには、並大抵の努力では世間が認めません。この小説、心底理解するのには、浮世絵など芸術知識に欠ける私には勉強不足を感じました。でも男勝りのお栄をはじめ、登場する絵師たちが、生き生きと描かれていたので愉しめた。おもしろかった。
2023/06/23
佐島楓
葛飾北斎の娘、応為の物語。芸道に生きるゆえの苦悩、添い遂げられなかった恋。朝井さんはご自分を応為に重ねてお書きになったに違いない。女だてら、という言葉に当時の女性の生き方も想像した。人生が書かれている作品である。
2018/10/22
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