ゴールドラッシュ (新潮文庫)
ゴールドラッシュ (新潮文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
ノワール系青春小説とでも言うのか。横浜・黄金町というある種特殊な街で育った14歳の在日韓国人少年。このクソガキ(失礼)の言動がとにかく過激で、それでいて不安定でやるせなく。そんな彼の心の動きを、柳さんは見事に書ききった。彼の衝動的な暴力を表現したかったのだろうが、冒頭の出来事はいただけない。わたしも薄目を開けて読んだが、動物への暴力が苦手な人は避けた方が賢明。総じて「疲労する」読書であった。
2020/12/15
ヴェネツィア
柳美里は4冊目だが、そのすべてが家族の崩壊を描いていた。今回のこの『ゴールドラッシュ』も例外ではない。物語の舞台は横浜黄金町。主人公かずきは14歳の中学生だ。彼には自由になるお金は有り余るほどにある。表題はここから来るのだろうが、それは何ものをも生み出さない。彼を含めて彼の崩壊した家族の誰もが生きることの目的を持つことができないのだ。小説は一貫して刺激的な現実をリアルに描くのだが、どこか散漫な印象もまぬがれない。あるいは、それもまた作家の意図するところであるのかもしれないが。殺伐としていて、哀しい物語だ。
2014/10/13
アマニョッキ
読友さんにお薦めいただいた本。柳美里さんの小説は初めてです。わたしはジェンダーに落とし込むことがあまり好きではないのですが、女性ながらに迸る暴力性と未熟な寂しさを兼ねそなえた14歳の少年を描ききる筆力は素晴らしいと思います。書き割りみたいな登場人物がたくさんいたのは少し残念でしたが、読みごたえのある作品でした。
2020/08/23
ミスターテリ―(飛雲)
美里さんの感受性の固まりのような文章が、14歳の壊れそうな心の変化を的確に表現。あっという間に少年の世界に放り込まれる。内面を表す圧倒的な語彙の迫力に圧倒され、読み進めるごとに少年の心の奥深くの闇に溺れそうなる。希望の光を見出そうと読み続けたが、誰も助けることができなかった。少年が内に抱えるエネルギーは万人共通であり、それがどこに向かって爆発するのかは誰にもわからない。その結論が、少年にとっては父親殺しであった。だがそれも現実なのか、少年が本当に望んだのは・・その心の葛藤から幻想の世界に入り込んでしまう。
2022/01/31
James Hayashi
木山捷平文学賞受賞作。再読であるが、ストーリーはほとんど覚えていない。予期できるストーリーを超えたもの、想定できる以上の文脈を紡ぎ出している。カルチャーショック以上である。金槌で頭をガンガン殴られている様。出だしから終わりまでこんな衝撃を受けたことはない。それも女性でありながら、男の野獣性、狂暴性を描き切っている。 著者の真骨頂であり、表現力、詳細な描写、訴えてくる文章と見事なもの。傑作である。
2019/10/14
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