冤罪 (新潮文庫)
冤罪 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
苦手意識の強い、武家モノ。宮部みゆきさん→池波正太郎先生、という時代小説愛好史を持つわたしには、敷居が高すぎた。『密夫の顔』で、夫が江戸詣での留守中に過ちを犯した(強姦された)妻に対する夫の仕打ち、不快でしかなかった。周平っちの比較的初期の作品ではあるので、文章に硬さがあったのやもしれぬ(文体が乗り移った・笑)。
2018/06/14
じいじ
著者初期の作品武家モノ9篇の短篇集、粒揃いで面白い。氏が描く女性は魅せられます。風采の美しさだけでなく、性格・心根のやさしさがいい。特に既婚の女が魅力的。嫁いでから豊満になり、大人の色香が漂ってきます。本作では、何時にも増して艶っぽい夫婦の絡みの場面が多く、男心を掻き立てます。締めを飾る【冤罪】が良い。どの時代にも悪徳な輩はいるもので、藩金を横領した上役が部下に責任を押し付けるベタな話だが、主人公・正義漢の若侍が恋する女の父親の冤罪を晴らす物語で、ほっこりする結末がいい。しっとりと時代小説に浸れる一冊。
2017/10/15
yoshida
藤沢周平さんの武家もの短編集。時代は江戸初期から幕末。粒揃いな作品。特に印象深い作品は「臍曲り新左」、「一顆の瓜」、「十四人目の男」、「密謀」。江戸初期と幕末だと時勢が大きく変わる。江戸初期は仕官先を求める浪人や、婿入り先を探す部屋住みの若侍が登場する。幕末は脱藩浪人や商家への押借り等、物騒な事件も増える。それぞれの時代の人々の心の動きや人情、哀切が巧みに書かれている。個人的には普段は頼りなさそうな人物が、急な事態に臨んで力量を示す作品が好きです。剣の腕や、衰えぬ胆力、能吏としての輝き。満足の短編集です。
2022/01/09
ふじさん
表題作「冤罪」は、部屋住みの堀源次郎には、ひそかに心を寄せる娘がいた。その娘の父親が藩金横領の咎で詰め腹を切らされことになる。不審に思った源次郎は追及に乗り出すが…という話。娘に心を寄せる源次郎が困難を乗り越え真実を追い求めるひたむきな姿がいい。他にも、「潮田田五郎置文」「臍曲がり新左」等、初期短編としては、珍しく新鮮でユーモラスな明るい基調の作品が多い。また、描かれる人物描写はさすが巧みで惹かれる物がある。
2021/08/20
ケンイチミズバ
女性の存在なくして物語は進まない。人生も何事も。差し出した書状に藩の御定め役が興味を示す。これはもしかすると思った。が、関ケ原の武勲を証明するこの書状が確かなモノという証に今一度証人から署名をもらって来いと言う。関ケ原どころか大阪城攻めすら今は遠い昔。用心棒、人足、百姓を厭わないが、七内は諦めていない。遠回しの門前払いに違いないし、彼の心にも少しは過った。またダメかもしれないと。そして実際、証人は・・・刀を棄てる人生をためらうほどには、刀の重みは変化した。が、人生どう転ぶのか、捨てる神あれば拾う神ありだ。
2021/06/28
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